[最終更新日]2021/11/24
「ライフキャリアレインボー」は、ドナルド・エドウィン・スーパー/Donald E.Super(1910年~1994年)が提唱した理論です。
ドナルド・エドウィン・スーパーは、アメリカ合衆国の経営学者、キャリア研究者、心理学者といくつもの顔を持っていました。
また、それぞれの側面から関連性を見出し、1950年代に「キャリア構築」や「職業選択」を定義付けしたキャリア発達理論を提唱しました。
ドナルド・エドウィン・スーパーは、「キャリア」という概念を単に「仕事」と捉えるのではなく、人生すべてにおける生活空間「家庭」「学校」「地域社会」「職場」「施設」など多角的視点から人の役割を考え、総合的に人の一生を”ライフキャリア”と捉えて、キャリア理論に導入しました。
このライフキャリアを考える上で出来上がった概念が”ライフキャリアレインボー”です。
”ライフキャリアレインボー”とは、一人ひとりが描き出す生涯の虹という意味(もしくは考え方)です。
それでは、”ライフキャリアレインボー”について、紐解いていきましょう。
Contents
ライフキャリアについて
生涯でのライフキャリア
ライフキャリアレインボーをお伝えする前に、そもそも「ライフキャリア」について知っておく必要があるでしょう。
「ライフキャリア」とは、その人の企業内での仕事のことだけを言うのではありません。
「ライフキャリア」とは、次のような場面も含まれます。
- 家庭や趣味などの日々の生活
- 地域との関係性や関わり
- ボランティア活動など
このように「ライフキャリア」とは、生涯にわたる多様な役割や経験などの積み重ねによって形作られる「その人の生き方」全体を示す言葉です。
ドナルド・エドウィン・スーパーの「ライフキャリア」の定義の中心は次の通りです。
- 人生を構成する一連の出来事
- 一連の自己発達の中で、労働としての職業と人生の他の役割の連鎖
- 青年期から引退期に至る報酬、無報酬の一連の地位
- 役割の中には、学生、雇用者、年金生活者、副業、家族、市民などの役割も含まれる
人生には、進学や就職、結婚、育児、地域活動(村民、町民、市民、県民等も含む)、場合によっては介護などの様々なライフイベントがあり、その中で「自分の在りたい姿」など自分らしい人生の選択をしていきたいところです。
そのためにも、あらかじめ起こりうるであろうライフイベントを想定することで、自分のライフキャリアをどのように進めていくかを、自分自身で決めていくことが大切なのです。
企業におけるライフキャリアについて
生涯を通じたライフキャリアですが、人生100年時代の中、職業人としての時間が一番多くなります。
その為、職業人として「どのようにその企業の中でライフキャリアを形成し、実行していくか」を考えることが必要です。
考えることで、「職業人としてのモチベーション維持」や「職業人を卒業した後の生涯を充実」したものとすることが出来るのです。
企業の役割の変化
働き方改革の一環として、企業の役割も変化しつつあります。
「雇用の継続」に重点を置くことも含め、従業員それぞれのライフキャリアをサポートすることも企業としては必要になってきています。
実際に、企業として個人のライフキャリアを支援する動きが多く出てきています。
多くの企業の中でパラレルキャリアと言われる「副業や兼業」を認める動きや、他にも「越境体験」などの社外活動も認められつつあります。
これは、ライフキャリア支援の一環です。
「越境体験」とは、所属する企業とは関連のない外部企業・機関等において「働く」ことです。
要するに、入社した企業での仕事経験のみならず、「出向等」という身分で、他の企業・団体で異なる経験をすることで、自らのスキルや能力が高まり、自己のキャリア成長に役立つものとなるのです。
このような機会を有効に活用するためにも、一人ひとりが自分自身のライフキャリアを、歩む道をきちんと考えておくことが必要です。
リカレント教育などを政府が後押し
企業は、従業員それぞれのキャリア形成をサポートする役割も持ちつつあります。
また、仕事に限らず、仕事をしながら学ぶ機会も多くなっています。
様々な分野・年代に対応した職業訓練や学び直しと言われる社会人向けの教育訓練プログラムであるリカレント教育など、政府の後押しもあり環境整備が進んでいます。
社会的にも「個人の成長を通じた、個人のライフキャリアの充実を支援する体制」が整いつつあると言えます。
このような社会的な動きの中で、漫然と過ごすのではなく、様々な支援を活用し自分自身を高めるため成長し、未来を充実させるためにも自分自身のライフキャリアをデザインすることが求められます。
このライフキャリアを考える上で必要なツールとしての概念が、「ライフキャリアレインボー」です。
ライフキャリアレインボーとは?
前述した通り、アメリカ合衆国のドナルド・エドウィン・スーパーが”ライフキャリアレインボー”が提唱しました。
ライフキャリアレインボーは、人間は、仕事のみならず、趣味や地域活動、家庭での役割など様々なキャリアを虹(レインボー)のように積み重ね、複数のキャリアを使い分けながら日々の暮らしを送っているという考え方です。
「年齢に応じた役割」「場面」の組み合わせで「ライフキャリア」が成り立っています。
その時々のキャリアを切り取るのではなく、ライフスパンという時間軸を組み合わせて、一連の流れとして生涯の発達段階を描写しながら、自分のキャリアを形成していくものです。
5つの場面(ライフステージ)と8つの役割(ライフロール)
ライフキャリアレインボーは、場面(ライフステージ)と役割(ライフロール)で表わさまれます。
場面(ライフステージ)は5つ、役割(ライフロール)は8つで表されます。
役割(ライフロール)は、6つ、7つと表示して説明されている場合もあります。これは、人によっても役割の数は変化することもあるという事です。このページでは一般的な数として8つの役割として説明致します。
5つの場面と8つの役割の組み合わせで、私たちは、一人ひとり異なるライフキャリアを形成していきます。
このライフキャリアは、「ワークキャリア」や「ライフキャリア」のどちらかに重点を置くというのではなく、その人の人生そのもの全ての場面(ライフステージ)によって、その果たす役割(ライフロール)が変化していくことを俯瞰的に観るものです。
ライフキャリアレインボーはそれを示した「その人の生涯図」です。
5つの場面(ライフステージ)について
- 成長段階(0歳~14歳)
学校生活や家庭での家族との関係の中で、自分自身を形成し、「自分はどのような人なのか」についての考えを発達させる期間です。
「仕事」世界に対する関心や働く意味の理解を発達させる時期でもあります。 - 探索段階(15歳~24歳)
学校生活(勉学のみではなく部活動等も含む)、余暇活動、仕事(アルバイト等)において、その経験の中のトライ・アンド・エラーを通じて、自分の役割や自分自身の好みなどが特定化されていく時期です。
生涯の職業の好みが具体化され、特定化され、実行に移していく模索の時期ともいわれています。 - 確立段階(25歳~44歳)
適切な職業(分野)が見つけられて、そこで自分の占める位置、役割、立場や地位など「地歩を固める」時期です。
キャリアビジョンが明確化になりつつあり、他者とのかかわりを学び、専門性を高め、安定を築いていく時期です。 - 維持段階(45歳~64歳)
職業の世界での役割や地位は既に確立されており、それを守る時期です。
成長してきた若手との競争から現在の地位を守ることに関心を示す時期ともいわれます。 - 解放段階(65歳~)
身体的・精神的な力量が下降するにつれて、職業活動から引退する時期です。
しかし、新しい役割も必要です。
退職後に新しい役割を得ることなどで、「シニアライフ」を楽しむ時期でもあります。
8つの役割(ライフロール)について
- 子供
最初は未熟であり、保護され親と共に過ごし、成長するにしたがって少しずつこの役割から離れていきます。 - 学生
小学校から大学等(学習する人)で学業に取り組む役割です。 - 職業人
アルバイト・パート・派遣社員・契約社員などの非正規職員、会社員など「働く」という活動をする人、全てを指します。 - 配偶者
夫、妻、法律的夫婦でない場合であっても、生活を共にするパートナーはこの役割となります。 - 家庭人
家事全般の活動を行うなど、家族の一員としての役割のことです。
家庭生活を安定的に営むためにそれぞれが役割を担っています。 - 親
子供を持つことで「親」の役割が生まれます。子供に対する養育の義務を持った役割です。 - 余暇人
スポーツや文化活動などへの趣味を持ち、楽しむ役割です。 - 市民
社会の一員としての社会貢献への役割です。ボランティアや子供のPTA、地域活動などです。納税も役割の一つです。
5つの場面(ライフステージ)と8つの役割(ライフロール)の基準組み合わせ
場面(ライフステージ) | 役割(ライフロール) |
⑴成長段階(0歳~14歳) | ①子供 ②学生 |
⑵模索段階(15歳~24歳) | ①子供 ②学生 ③職業人 ⑦余暇人 ⑧市民 |
⑶確立段階(25歳~44歳) | ③職業人 ④配偶者 ⑤家庭人 ⑥親 ⑦余暇人 ⑧市民 |
⑷維持段階(45歳~64歳) | ③職業人 ④配偶者 ⑤家庭人 ⑥親 ⑦余暇人 ⑧市民 |
⑸解放段階(64歳~) | ④配偶者 ⑤家庭人 ⑥親 ⑦余暇人 ⑧市民 |
⑴成長段階の後期で、親が仕事をしていた場合に、家事をしたり兄弟の面倒を見たりと「家庭人」の役割を担っている場合があります。
他にも、⑶確立段階⑷維持段階⑸解放段階でも②学生としての日常を送っている場合もあるなど、状況は様々です。
自分に当てはめて一度考えてみてください。
今までの日本社会では、10代~20代で教育を受け、20代~60代は職業人として活躍し、60代で引退してその後は老後としての時間を楽しむといった人生モデルが当たり前でした。
日本的経営の三種の神器と言われた「終身雇用・年功序列・企業内労働組合」の崩壊もがあり、人生モデルも崩壊しています。
人生100年時代と言われおり、日本においても働き方改革や上述した終身雇用の崩壊が影響し、定年延長はもちろん、定年制自体の廃止なども叫ばれており大きく社会が変革しています。
つまり、それぞれが自分に合ったキャリアプランを考え、自分の人生を設計することが必要な時代となっています。
また、キャリアプランは、自分だけで完結するものではありません。家族、地域社会、組織などの関係も考慮し、自分を取り巻く環境も視野に考えることが必要です。
参照:キャリア教育推進の手引/文部科学省
ライフキャリアレインボーワークシートを書く方法
社会変革と共に、当たり前と思われていた人生モデルが崩壊した今、自分に合ったキャリアプランで、自分のありたい生涯の全体像を考えていくことが求められる時代となっています。
ここで重要な考え方が「ライフキャリアレインボー」です。
当然ですが、今描いたライフキャリアレインボーが、この先必ずその通りに進むものではありません。
新型コロナウイルスで考えるライフキャリアレインボー
ライフキャリアは、その時々の社会的状況に大きな影響を受けることがあるからです。
その事象として、現在の新型コロナウィルス感染症の蔓延があります。
緊急事態宣言・リモートワーク(テレワーク)
緊急事態宣言等により働き方自体が変化しています。リモートワークの導入企業も増加する半面、導入過渡期で慣れない生活に弊害も出ています。
また、経営悪化による雇止めや解雇から、廃業や倒産などによる失業まで、日本だけではなく世界中の労働市場で大きな影響を受けています。
このような状況に翻弄されることの無いよう、自分自身の今後のキャリアを確立し、どのような社会変化にも耐えうるように、資格取得や空き時間を学びに活用する人が増加しています。
在籍出向
また、コロナ禍での失業者増加を防ぐために、在籍出向が増加しています。
在籍出向は、従業員が元の会社に在籍したまま、「出向」という形で他の企業で働くものです。
例えば、2020年には航空業界から家電業界に出向の取組が行われたことが、話題となりました。他にも、リゾートホテルからレストラン、鉄道業界からホテル業界などへの在籍出向の事例があります。
この当事者となった場合には、緊急的にやむを得ないと捉えるのではなく、出向先でどのような貢献をし、どのようなことを学び、どのような経験を積み、どのように将来に活かすかを考える時としなくてはならないのです。
このように、ライフキャリアレインボーは、一度構成されたら固定されるものではなく、自分の成長と時間の流れ、環境や状況と共に、変化することもあるのです。
その時は、今一度、振り返るためにもライフキャリアレインボーを描いてみてください。
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ライフキャリアレインボーワークシートを書く意味
ライフキャリアレインボーワークシートを書く意味は次の通りです。
- 現在の自分の状況を把握する。
- 今まで及び将来のライフイベントの確認をする。
- 「ありたい生涯」「なりたい自分」などを確認する。
- 理想と現状とのバランス、ギャップを可視化する。
- そのために、今の自分に何が必要か、何を選択したらよいのか、今後の変化を予測して、何をする(準備)すれば良いかを明確にしてくれる
など、ライフキャリアレインボーワークシートを書く事で、自分自身の中で様々な事が明らかになる良い機会となるでしょう。
それを基に、歩みを進め、学びの機会を持ったり、自分の役割を確認したりすることで、その時々の充実感やモチベーション向上にも繋がるのです。
アーチ・モデルについて
ドナルド・エドウィン・スーパーは、1990年「ライフキャリアレインボー」の考え方を基盤とした「アーチ・モデル」を構築しました。
理論的には「ライフキャリアレインボー」と大きく変わりはありませんが、より分かりやすくするために趣旨を再定義したのです。
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アーチ・モデルの目的
- それぞれが、現実を直視して、生涯にわたり変化する多様な役割を担い、自分の人生を構築することが出来ること。
- それぞれが、自己と環境に向き合い、更に実行に移しやすいモデルであること。
また、ドナルド・エドウィン・スーパーは、「アーチ門は、個人とその人のキャリア発達に、体系的に寄与する道筋を説明するのに重要な役割を持つ。更に、これらの決定要因は、自分自身である」としています。
その中で、「アーチの要石」は自分自身(自己・self)である。すなわち「意思決定をする人」その人自身であるとしています。
ライフキャリアレインボー関連書籍一覧
- D・E・スーパーの生涯と理論/全米キャリア発達学会
- キャリアの心理学 ―キャリア支援への発達的アプローチ―/渡辺 三枝子
- 社会構成主義キャリア・カウンセリングの理論と実践/渡部昌平等
- キャリアコンサルティング 理論と実際/木村 周
- キャリア・デザイン・ガイド―自分のキャリアをうまく振り返り展望するために/金井 寿宏
ライフキャリアレインボー関連サイト一覧
- ライフキャリア・レインボー/日本の人事部
- 【キャリア理論】ライフキャリアレインボーとは?ワークシートのやり方、書き方をご紹介!/KIPカウンセリング
- 自分らしい虹を描こう!「ライフキャリアレインボー」の取り組み方・メリット/みんなのキャリア相談室
- ライフキャリアレインボー|多層的な役割から考える自分のキャリアとは?/mazrica
- ライフキャリア・レインボー/BizHINT
ライフキャリアレインボー(虹)とは?人生100年時代のワークシートを書く方法のまとめ
ライフキャリアレインボーを考えてみる機会を持つことは、自分自身の仕事に限らず、家庭、趣味、社会貢献などの多角的要素が明確になってきます。
それにより、自分の生き方やありたい姿が明らかになり、今後の私達それぞれの未来が、それぞれにとってどのようなものとなるかを意味づけるものとなります。
また、時間の経過とともに、自分の役割が変化するように、自分に関わる人々の役割も変化をすることを忘れてはいけません。
その人たちも同じようにライフキャリアを持っていることを理解し、協力し、支え合いながら、今をそしてこれからを生きていきたいものです。
そうしたことも踏まえつつ、長寿社会となり、長い人生を楽しく意味あるものとするためには、自分自身の手で、思うように彩溢れるライフキャリアレインボーを描いてみてはいかがでしょう。
あなたの「生涯の虹(レインボー)」にエールを!