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現代社会は、技術の進歩、グローバル化、働き方の多様化など、目まぐるしい変化の中にあります。
このような変化は、私たちに多くの恩恵をもたらす一方で、新たな危険性や有害性、つまり「リスク」を生み出す可能性も秘めています。
企業活動においては、事故や災害、健康障害といったリスクは、従業員の安全を脅かすだけでなく、経営にも深刻な影響を与えかねません。
そこで重要となるのが、「リスクアセスメント」という考え方と取り組みです。
「リスクアセスメントって何だか難しそう…」「専門知識がないとできないのでは?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ご安心ください。
ここでは、「リスクアセスメントとは何か」という基本的な知識から、その目的、具体的な進め方、さらには様々な場面での活用例まで、誰もがわかるように、丁寧かつ具体的に、そしてビジネスの現場で役立つ視点を交えながら解説していきます。
なぜ今、リスクアセスメントがこれほどまでに注目され、多くの企業や組織で導入が進められているのでしょうか。
それは、リスクを未然に防ぐこと、あるいは万が一発生した場合の影響を最小限に抑えることが、持続可能な社会や企業経営にとって不可欠であるという認識が広がっているからです。
事故やトラブルが発生してから対応する「事後対応型」ではなく、事前にリスクの芽を摘み取る「予防管理型」への転換が求められています。
リスクアセスメントは、この「予防管理」を実現するための最も効果的な手法の一つなのです。
ここの内容を通じて、読者の皆様がリスクアセスメントの本質を理解し、「わかりやすい」と感じていただけるよう、専門用語はかみ砕いて説明し、豊富な具体例を盛り込みます。
そして、日々の業務や生活の中で「リスク」に対する意識を高め、安全で安心な環境づくりに貢献できるようになることを目指します。
「リスクアセスメントとは、未来を予測し、より良い未来を創造するための羅針盤」と言えるかもしれません。
この羅針盤を手にすることで、私たちは潜在的な危険を回避し、より安全で生産性の高い活動を行うことが可能になります。
さあ、一緒にリスクアセスメントの世界を探求し、その知識を深めていきましょう。
この内容が、皆様にとって「リスクアセスメントとは何かを明確に理解できた」「自社でも取り組んでみよう」と思っていただけるきっかけとなれば幸いです。
ここでは、みな様にとって、最も有益で理解しやすい情報を提供することを目指します。
そのために、情報の網羅性、専門性、そして何よりも「わかりやすさ」を追求し、皆様の疑問や不安を解消できるような内容でお届けします。
それでは、早速本題に入っていきましょう。
Contents
- 1 リスクアセスメントとは何か?基本をわかりやすく解説
- 2 リスクアセスメントの目的と多岐にわたるメリットとは?
- 3 リスクアセスメントの具体的な手順・進め方をわかりやすく徹底解説
- 4 リスクアセスメント実施時の重要ポイントと注意点をわかりやすく整理
- 5 【具体例集】様々な場面でのリスクアセスメント活用事例をわかりやすく紹介
- 6 リスクアセスメントと法律・規格の関係性をわかりやすく紐解く
- 7 リスクアセスメントを効果的に!役立つツールと手法をわかりやすく解説
- 8 まとめ:リスクアセスメントを未来の安全と成長につなげるために
- 9 この内容をまとめたYouTube
リスクアセスメントとは何か?基本をわかりやすく解説
リスクアセスメントという言葉を聞いて、皆さんはどのようなイメージを持つでしょうか。
「なんだか専門的で難解そうだ」「自分たちの業務にはあまり関係ないかもしれない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、リスクアセスメントは、私たちの職場や日常生活に潜む様々な「キケン」を見つけ出し、それによって起こりうる「よくないこと(事故や健康被害など)」の大きさと発生の可能性を評価し、対策を講じるための一連のプロセスを指します。
一言で言えば、「未来の事故を未然に防ぐための科学的な手法」と理解することができます。
この章では、「リスクアセスメントとは何か」という根本的な問いに対して、その定義、基本的な考え方、そしてなぜそれが必要なのかを、できる限りわかりやすく解説していきます。
ビジネスの現場はもちろん、あらゆる活動において安全を確保するための第一歩となる知識です。
誰もがイメージしやすいように、身近な例も交えながら説明を進めていきましょう。
「リスク」と「アセスメント」とは?言葉の意味を分解して理解する
まず、「リスクアセスメント」という言葉を分解して考えてみましょう。
リスク(Risk)とは?
一般的に「危険性」や「恐れ」と訳されることが多いですが、安全衛生の分野ではもう少し具体的に定義されます。
リスクとは、「危険な事象が発生する可能性(発生確率)」と「その事象が発生した場合の結果の重大性(被害の大きさ)」の組み合わせで表現されます。
つまり、単に「危ない」というだけでなく、「どれくらいの確率で、どれくらいひどいことが起こりうるのか」を定量的に、あるいは定性的に評価しようとする考え方です。
例えば、「高いところから物が落ちてくる」という危険源があったとします。物が落ちてくる可能性が非常に高く(発生確率:大)、もし人に当たれば大怪我をする(結果の重大性:大)場合、このリスクは「高い」と評価されます。
逆に、物が落ちてくる可能性が低く(発生確率:小)、当たってもかすり傷程度(結果の重大性:小)であれば、リスクは「低い」と評価されます。
このように、可能性と重大性の両面から考えるのがポイントです。
アセスメント(Assessment)とは?
「評価」や「査定」という意味を持つ言葉です。
つまり、リスクアセスメントとは、「リスクを評価すること」を指します。
具体的には、職場や作業に潜む危険源(ハザード)を特定し、それらが引き起こす可能性のあるリスクの度合いを見積もり、許容できるレベルかどうかを判断する一連のプロセス全体を意味します。
したがって、「リスクアセスメントとは」、職場や作業にどのような危険が潜んでいるかを洗い出し(危険源の特定)、それらの危険が実際に労働災害や疾病につながる可能性と、その影響の大きさを評価し(リスクの見積もりと評価)、その評価に基づいて対策の優先度を決定し、リスクを低減するための措置を検討・実施する(リスク低減措置の検討と実施)という、一連の体系的な手順のことを言うのです。
これをわかりやすく言うと、「職場の安全点検をして、危ないところを見つけ、どれくらい危ないかを判断し、どうすれば安全になるかを考えて実行すること」となります。
リスクアセスメントの基本的な考え方:予防原則に基づくアプローチ
リスクアセスメントの根底にあるのは、「予防原則」という考え方です。
これは、「何かが起こってから対応する」のではなく、「何かが起こる前に、その可能性をできるだけ低くする」というアプローチです。
事故や災害は、一度発生してしまうと、人命の損失、経済的な打撃、社会的な信用の失墜など、取り返しのつかない事態を招くことがあります。
だからこそ、事前に危険の芽を摘み取ることが非常に重要なのです。
想像してみてください。
例えば、自転車に乗るとき。
ヘルメットを着用するのはなぜでしょうか?
それは、「万が一、転倒して頭を打った場合に、大怪我をするリスクを減らすため」ですよね。
これも広義のリスクアセスメントに基づいた行動と言えます。
「転倒するかもしれない」という危険源を認識し、「頭を打つと危ない」という結果の重大性を考え、「ヘルメットを着用する」という対策を講じているわけです。
職場の安全もこれと同じです。機械の操作中に手や指を挟むかもしれない、化学物質を扱っていて健康を害するかもしれない、
長時間同じ姿勢で作業していて腰を痛めるかもしれない…など、あらゆる作業には何らかの潜在的な危険性(ハザード)が潜んでいます。
リスクアセスメントは、これらのハザードを「見える化」し、科学的な根拠に基づいて対策を講じることで、労働災害を未然に防ぐことを目指します。
リスクアセスメントは、決して難しい専門家だけが行うものではありません。
職場で働く一人ひとりが、自分の身の回りにある危険に気づき、それを改善しようとすることが大切です。
もちろん、専門的な知識や技術が必要な場合もありますが、基本的な考え方や進め方は、誰にでも理解し、実践できるものです。
この「リスクアセスメントとは何か」という問いへの理解を深めることが、安全な職場環境を実現するための第一歩となります。
なぜリスクアセスメントが必要なのか?その重要性
では、なぜ企業や組織は時間と労力をかけてリスクアセスメントに取り組む必要があるのでしょうか。
その理由は多岐にわたりますが、主なものをいくつか挙げてみましょう。
労働災害の未然防止
最も直接的かつ重要な理由です。
リスクアセスメントを実施することで、職場の危険性や有害性を特定し、適切な対策を講じることで、労働災害や職業性疾病の発生を未然に防ぐことができます。
これは、従業員の安全と健康を守るという企業としての社会的責任を果たす上で不可欠です。
法的要求事項の遵守
多くの国や地域で、事業者に対してリスクアセスメントの実施が法律で義務付けられています。
日本においても、労働安全衛生法に基づき、特定の業種や作業においてリスクアセスメントの実施とその結果に基づく措置が求められています。
法令を遵守することは、企業が社会的な信頼を得て活動を続けるための基本です。
生産性の向上と経済的損失の低減
事故や災害が発生すると、被災した従業員の治療費や休業補償、設備の復旧費用、生産停止による損失、さらには企業のイメージダウンなど、多大な経済的損失が生じます。
リスクアセスメントによって事故を未然に防ぐことは、これらの損失を回避し、結果として生産性の向上にも繋がります。
安全な職場環境は、従業員のモチベーションを高め、安心して業務に集中できる状況を作り出します。
企業イメージと社会的信頼の向上
安全衛生活動に積極的に取り組む企業は、従業員だけでなく、顧客や取引先、地域社会からの信頼も高まります。
「従業員を大切にする企業」「安全管理がしっかりしている企業」という評価は、企業価値の向上に大きく貢献します。
継続的な改善(PDCAサイクル)の推進
リスクアセスメントは一度実施して終わりではありません。
定期的に見直しを行い、新たな危険性に対応したり、対策の効果を検証したりすることで、職場の安全衛生水準を継続的に向上させていくことができます。
これは、品質管理などでよく用いられるPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を安全衛生管理に適用するものです。
このように、リスクアセスメントは、単に「危ないこと」を避けるためだけの活動ではなく、従業員の福祉、法令遵守、経営効率、企業価値向上など、多方面にわたるメリットをもたらす重要な取り組みなのです。
「リスクアセスメントとは何か」を正しく理解し、その必要性を認識することが、安全で持続可能な企業活動の基盤となります。
この章で解説した基本的な概念が、次の章以降で学ぶ具体的な目的や手順を理解するための土台となれば幸いです。
特に、近年では企業の社会的責任(CSR)やESG(環境・社会・ガバナンス)経営への関心が高まっており、その中で従業員の安全と健康を守ることは最重要課題の一つとして位置づけられています。
リスクアセスメントは、これらの要請に応えるための具体的なアクションプランと言えるでしょう。
わかりやすい言葉で言えば、リスクアセスメントは「みんなが安心して働ける職場を作るための設計図」のようなものです。
この設計図をしっかりと描き、実行していくことが、これからの企業にはますます求められています。
リスクアセスメントの目的と多岐にわたるメリットとは?
前章では、リスクアセスメントとは何かという基本的な定義や考え方について、わかりやすく解説しました。
リスクアセスメントが、職場に潜む危険性や有害性を見つけ出し、それらによる労働災害や疾病を未然に防ぐための体系的な手法であることをご理解いただけたかと思います。
では、具体的にリスクアセスメントは何を目指して行われるのでしょうか?
そして、それを実施することによって、企業や従業員にはどのような良いことがあるのでしょうか?
この第2章では、「リスクアセスメントの目的と多岐にわたるメリット」に焦点を当て、より深く掘り下げていきます。
リスクアセスメントを導入・推進する上での動機付けとなり、その価値を再認識していただけるような情報を提供したいと思います。
リスクアセスメントの主要な目的:安全で健康な職場環境の実現
リスクアセスメントの最も根源的かつ主要な目的は、「労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成すること」にあります。
これは、労働安全衛生法にも明記されている事業者の責務であり、リスクアセスメントはこの責務を具体的に果たすための手段となります。
もう少し具体的に、主要な目的を分解してみましょう。
潜在的な危険性や有害性の明確化(見える化)
職場には、機械設備、化学物質、作業方法、作業環境など、様々な要因に起因する危険性や有害性が存在します。
しかし、それらは日常業務に紛れて見過ごされたり、危険だと認識されていなかったりすることが少なくありません。
リスクアセスメントの最初の目的は、これらの「隠れた危険」や「気づいていない危険」を体系的に洗い出し、リストアップすることです。
これにより、何が問題なのか、どこに注意すべきなのかが明確になります。
いわば、職場の「健康診断」のようなもので、問題点を特定することが改善の第一歩です。
リスクの大きさと優先順位の客観的評価
特定された危険性や有害性が、実際にどの程度のリスク(発生可能性と結果の重大性の組み合わせ)を持っているのかを評価します。
すべての危険に一度に対応することは現実的ではありませんし、その必要もありません。
リスクの大きさを客観的に評価することで、「どのリスクに最優先で取り組むべきか」「どこまで対策すれば許容可能なレベルになるのか」といった判断基準を得ることが目的です。
これにより、限られたリソース(時間、費用、人員)を効果的に活用し、最も効果の高い安全対策から順に実施することが可能になります。
合理的で実効性のあるリスク低減措置の決定と実施
リスクの評価結果に基づいて、そのリスクを許容可能なレベルまで低減するための具体的な対策を検討し、実施します。
対策には、危険な作業そのものをなくす(除去)、より安全なものに置き換える(代替)、工学的な対策(隔離、安全装置の設置)、管理的な対策(作業手順の整備、教育訓練)、個人用保護具の使用など、様々なレベルがあります。
リスクアセスメントの目的は、これらの対策の中から最も合理的で効果的なものを選び出し、確実に実行に移すことです。
「とりあえず何かやる」のではなく、根拠に基づいた対策を実施することが重要です。
残留リスクの認識と管理体制の構築
どんなに対策を講じても、すべてのリスクをゼロにすることは難しい場合があります。
対策後に残るリスク(残留リスク)を明確に認識し、それに対する管理体制(緊急時の対応、定期的な監視など)を構築することも重要な目的です。
また、リスクアセスメントの結果や対策内容は、関係する従業員に周知徹底し、安全意識の向上を図ることも含まれます。
これらの目的を達成することで、結果として「ゼロ災害」の職場を目指し、従業員が安心して能力を発揮できる環境を作り上げることが、リスクアセスメントの究極的なゴールと言えるでしょう。
これは「リスクアセスメントとは、安全への道しるべである」という言葉に集約されます。
リスクアセスメントがもたらす多岐にわたるメリット
リスクアセスメントを適切に実施し、その結果に基づいて改善活動を進めることは、前述の直接的な目的に加えて、企業や組織に様々な副次的効果、すなわちメリットをもたらします。
これらのメリットを理解することは、リスクアセスメントへの取り組みをより積極的に、そして継続的に行うための大きな動機となります。
従業員にとってのメリット
- 安全・安心感の向上: 自分の働く環境が安全であるという実感は、精神的な安定につながり、仕事への満足度を高めます。「危ないかもしれない」という不安を抱えながら働くよりも、安心して業務に集中できる方が良いのは当然です。
- 労働災害・職業病の防止: 怪我や病気から身を守ることができ、健康で長く働き続けることができます。これは従業員本人だけでなく、その家族にとっても非常に重要です。
- 安全意識と参加意識の向上: リスクアセスメントのプロセスに従業員が参加することで、自ら危険を発見し、改善提案を行うなど、主体的に安全活動に関わるようになります。これにより、職場全体の安全文化が醸成されます。
- 作業の効率化: 安全対策を講じる過程で、作業方法が見直され、無理・無駄・ムラが排除されることがあります。結果として、より安全で効率的な作業方法が確立されることもあります。
企業・組織にとってのメリット
- 法令遵守(コンプライアンス)の徹底: 労働安全衛生法などの関連法規で求められるリスクアセスメントの実施義務を果たすことができます。これにより、行政からの指導や罰則のリスクを回避できます。
- 経済的損失の削減: 労働災害が発生すると、治療費、休業補償、損害賠償、生産停止、機械の修理費用など、直接的なコストが発生します。さらに、企業の評判低下、従業員の士気低下、顧客離れといった間接的なコストも甚大です。リスクアセスメントは、これらの経済的損失を未然に防ぐ効果があります。
- 生産性の向上: 安全な職場は、従業員の集中力を高め、ミスの減少につながります。また、事故による業務中断がなくなることで、安定した生産活動が可能になります。従業員の定着率向上にも寄与し、採用・教育コストの削減も期待できます。
- 企業イメージ・社会的評価の向上: 「従業員の安全と健康を大切にする企業」という姿勢は、顧客、取引先、投資家、地域社会からの信頼を高めます。これは、企業のブランド価値向上や、優秀な人材の獲得にも繋がります。いわゆる「ホワイト企業」としての評価を得やすくなります。
- 組織的な問題解決能力の向上: リスクアセスメントのプロセスを通じて、問題を発見し、原因を分析し、対策を立案・実行するという一連の課題解決スキルが組織全体で向上します。これは、安全衛生以外の分野でも活かせる能力です。
- 継続的な改善サイクルの確立: リスクアセスメントは、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回すための具体的なツールとなります。定期的な見直しを行うことで、安全衛生管理システムを継続的に改善し、より高いレベルの安全性を目指すことができます。
- 良好な労使関係の構築: 企業が従業員の安全確保に真摯に取り組む姿勢を示すことは、従業員からの信頼を得て、良好な労使関係を築く上で非常に重要です。従業員参加型のリスクアセスメントは、コミュニケーションの活性化にもつながります。
このように、「リスクアセスメントとは何か」を理解し実践することは、
単なる義務ではなく、企業と従業員の双方にとって多くの恩恵をもたらす「賢明な投資」と言えるでしょう。
特に、危険を伴う作業が多い製造業や建設業はもちろんのこと、オフィスワークが中心の業種であっても、メンタルヘルス不調や長時間労働といった新たなリスクが存在します。
あらゆる業種・規模の組織にとって、リスクアセスメントの目的を理解し、そのメリットを享受することは、持続的な成長と発展のために不可欠です。
わかりやすく言えば、「リスクアセスメントは、みんながハッピーになるための活動」なのです。
次の章では、このリスクアセスメントを具体的にどのように進めていくのか、その手順について詳しく解説していきます。
目的とメリットをしっかりと念頭に置くことで、手順の各ステップの意味がより深く理解できるようになるはずです。
リスクアセスメントの具体的な手順・進め方をわかりやすく徹底解説
これまでの章で、「リスクアセスメントとは何か」という基本概念、そしてその目的とメリットについて、わかりやすく解説してきました。
リスクアセスメントが、職場の安全衛生を確保し、多くの恩恵をもたらす重要な取り組みであることをご理解いただけたことと思います。
しかし、「具体的に何をどうすればリスクアセスメントを実施できるの?」という疑問をお持ちの方も多いでしょう。
この第3章では、いよいよリスクアセスメントの具体的な手順・進め方について、ステップごとに詳細に解説していきます。
これは、リスクアセスメントを実践する上で最も核となる部分です。
厚生労働省が示している指針などを参考に、一般的な手順を紹介しますが、業種や事業場の規模、特性に応じてアレンジすることも可能です。
大切なのは、形式にとらわれることよりも、実質的なリスク低減につながる活動を行うことです。
リスクアセスメント実施体制の確立と準備
本格的な手順に入る前に、まずはリスクアセスメントを円滑に進めるための準備と体制づくりが重要です。
これをおろそかにすると、途中で頓挫したり、効果の薄いものになったりする可能性があります。
(1) 実施体制の確立
推進担当者の任命: 事業者(経営トップ)がリスクアセスメントの実施を表明し、中心となって推進する担当者やチームを任命します。安全管理者、衛生管理者、産業医などが関与することが一般的ですが、小規模事業場では事業主自らがリーダーシップを取ることもあります。
実施メンバーの選定: 実際にリスクアセスメントを行うメンバーを選びます。管理監督者だけでなく、実際に作業を行っている従業員の代表者を含めることが非常に重要です。現場の状況を最もよく知る彼らの意見は、危険源の特定や対策の検討において不可欠です。
役割分担の明確化: 誰が何を担当するのか、責任と権限を明確にしておきます。
(2) 基本方針の策定と周知
事業者は、リスクアセスメントに取り組む基本方針(目的、対象範囲、実施期間、関係者の役割など)を策定し、全従業員に周知徹底します。
トップのコミットメントを示すことが、活動を推進する上で大きな力となります。
(3) 対象範囲の決定
事業場内のどの業務、どの作業、どの場所を対象とするのかを明確にします。
最初は特定の部門や作業に限定して試行的に始め、徐々に対象を拡大していく方法も有効です。
全ての業務を一度に行おうとすると負担が大きすぎる場合があります。
(4) 情報収集と教育
過去の災害事例、ヒヤリハット事例、作業標準、使用している機械の取扱説明書、化学物質の安全データシート(SDS)など、関連情報を収集します。
実施メンバーや関係者に対して、リスクアセスメントの基本的な知識や手順に関する教育を行います。全員が共通認識を持って取り組むことが成功の鍵です。
これらの準備段階をしっかりと行うことで、その後の手順がスムーズに進みます。
「段取り八分、仕事二分」という言葉があるように、準備は非常に大切です。
ステップ1:危険性または有害性(ハザード)の特定
ここからがリスクアセスメントの具体的な手順の始まりです。
最初のステップは、職場にどのような危険性または有害性(ハザード)が潜んでいるかを洗い出すことです。
「わかりやすく言うと、職場にどんな『危ないこと』や『体に悪いこと』があるかを見つける作業」です。
特定する方法の例
- 職場巡視: 実際に作業場所を見て回り、危険な箇所や作業方法がないかを確認します。五感を使い、様々な角度から観察します。
- 作業の洗い出しと分析: 日常的に行っている作業をリストアップし、それぞれの作業工程ごとに危険性や有害性がないかを検討します。
- 従業員からの意見聴取: 実際に作業を行っている従業員からのヒアリングやアンケートを通じて、彼らが感じている危険や不安を吸い上げます。「ヒヤリとしたこと」「ハッとしたこと」(ヒヤリ・ハット)の情報を集めるのも有効です。
- 過去の災害事例・ヒヤリハット事例の分析: 自社や他社で発生した労働災害やヒヤリハットの事例を参考に、同様の危険が潜んでいないかを確認します。
- 安全データシート(SDS)の確認: 化学物質を使用している場合は、SDSからその有害性情報を入手します。
- 機械設備等のチェックリストの使用: 機械の種類ごとに、安全装置の有無、点検状況などをチェックリストに基づいて確認します。
特定すべき危険性・有害性の分類例
- 機械等による危険性: 挟まれ、巻き込まれ、切れ、こすれ、墜落、転落、感電、高温・低温物への接触など。
- 化学物質等による有害性: 爆発、火災、中毒、皮膚障害、がん、アレルギーなど。
- 作業行動に伴う危険性: 墜落、転倒、激突、無理な動作による腰痛など。
- 作業環境による有害性: 高温、低温、騒音、振動、有害光線、酸素欠乏など。
- その他の危険性・有害性: 交通労働災害、食中毒、感染症、ハラスメント、長時間労働によるメンタルヘルス不調など。
このステップでは、些細なことでも見逃さず、できるだけ多くの危険性や有害性をリストアップすることが重要です。
「これは大したことないだろう」と自己判断せず、まずは洗い出すことに専念しましょう。
ステップ2:リスクの見積もり
次に、ステップ1で特定された危険性や有害性の一つひとつについて、それが実際に労働災害や疾病につながるリスクの大きさを見積もります。
リスクの大きさは、一般的に「発生する可能性(頻度)」と「その結果の重大性(負傷または疾病の程度)」の2つの側面から評価されます。
(1) 発生する可能性(頻度)の見積もり
その危険な事象が、どのくらいの頻度で発生しそうかを見積もります。
例えば、以下のような段階で評価します。
- 高(頻繁に): ほぼ確実に発生する、または過去に頻繁に発生している。
- 中(時々): 時々発生する可能性がある、または過去に数回発生している。
- 低(まれに): まれにしか発生しないと考えられる、または過去に発生した記録がないが可能性はある。
- 極低(ほとんどない): 発生するとは考えにくい。
(2) 結果の重大性(負傷または疾病の程度)の見積もり
もしその危険な事象が発生した場合、どの程度のケガや病気になるかを見積もります。例えば、以下のような段階で評価します。
- 致命的(死亡・後遺障害): 死亡、または永久的な労働不能・重度の後遺障害。
- 重大(休業災害): 休業を要する程度の負傷または疾病。
- 中程度(不休災害): 休業を伴わないが、通院治療が必要な程度の負傷または疾病。
- 軽微(手当のみ): 応急手当のみで済む程度の軽微な負傷または疾病。
(3) リスクレベルの決定
上記(1)と(2)を組み合わせて、リスクのレベルを決定します。
よく用いられるのは、下表のようなマトリックス法です。
可能性と重大性の各段階に点数を割り当て、掛け合わせることでリスクレベルを算出する方法もあります。
結果の重大性 | 発生する可能性 | |||
---|---|---|---|---|
極低 | 低 | 中 | 高 | |
致命的 | 中(III) | 高(IV) | 高(IV) | 極高(V) |
重大 | 低(II) | 中(III) | 高(IV) | 高(IV) |
中程度 | 極低(I) | 低(II) | 中(III) | 中(III) |
軽微 | 極低(I) | 極低(I) | 低(II) | 低(II) |
(リスクレベルの例:V: 極めて高い、IV: 高い、III: 中程度、II: 低い、I: 極めて低い)
この評価は、客観的なデータ(過去の災害統計など)があればそれに基づき、なければ経験や専門的知見に基づいて行います。
重要なのは、評価基準を事前に明確にしておき、チーム内で統一した判断ができるようにすることです。
ステップ3:リスク低減措置の優先度の設定とリスク低減措置の検討・実施
ステップ2で見積もられたリスクレベルに基づき、どのリスクから対策を講じるべきか、優先度を設定します。
一般的には、リスクレベルが高いもの(例:上記の表で「極高(V)」「高(IV)」と評価されたもの)から優先的に対策を検討します。
(1) リスク低減措置の検討
優先度の高いリスクに対して、そのリスクを許容可能なレベルまで下げるための具体的な対策(リスク低減措置)を検討します。
この際、以下の優先順位で対策を考えるのが原則です(法令で定められた措置がある場合はそれを最優先します)。
- 除去(Elimination): 危険な作業、工程、物質そのものをなくしてしまう、または使用しない。最も効果的な対策です。(例:高所作業をなくすために地上で組み立てる、有害な化学物質の使用をやめる)
- 代替(Substitution): より危険性の低いものに置き換える。(例:有機溶剤を水性のものに変える、手作業を自動機械に置き換える)
- 工学的対策(Engineering controls): 施設の改善、機械の安全装置の設置、隔離、局所排気装置の設置など、設備面での対策。(例:危険な箇所に安全カバーを取り付ける、騒音源を密閉する)
- 管理的対策(Administrative controls): 作業手順の標準化、立入禁止措置、作業時間の管理、安全教育・訓練の実施、警報システムの導入など、人の管理や作業方法の工夫による対策。(例:危険作業のマニュアルを作成し教育する、作業許可制度を導入する)
- 個人用保護具の使用(Personal Protective Equipment – PPE): 上記1~4の対策でリスクを十分に低減できない場合に、補助的な手段として使用します。(例:ヘルメット、安全靴、保護メガネ、防毒マスク、耳栓などを着用する)
対策を検討する際は、その実効性、実現可能性、コスト、導入後の新たなリスクの発生などを総合的に考慮します。
一つの対策だけでなく、複数の対策を組み合わせることも有効です。
「リスクアセスメントとは、創造的な問題解決のプロセスでもある」と言えます。
(2) リスク低減措置の実施
検討した対策の中から最適なものを選択し、計画を立てて実行に移します。
誰が、いつまでに、何を行うのかを明確にし、必要な予算や人員を確保します。
実施にあたっては、関係する従業員への十分な説明と教育が必要です。
ステップ4:リスク低減措置実施後の残留リスクの評価と記録・見直し
リスク低減措置を実施した後、その対策が実際に効果があったのか、リスクが許容可能なレベルまで低減されたのかを再度評価します。
これを「残留リスクの評価」と呼びます。
もし、リスクが十分に低減されていない場合は、再度ステップ3に戻り、追加の対策を検討・実施する必要があります。
記録と共有
リスクアセスメントの一連のプロセス(特定された危険性・有害性、リスクの見積もり結果、実施したリスク低減措置、残留リスクの評価など)は、文書として記録し、保管することが重要です。労働安全衛生法でも記録の作成・保存が義務付けられている場合があります。 記録は、以下のような目的で活用されます。
- 従業員への教育・周知資料として
- 次回の見直し時の参考資料として
- 安全衛生活動の成果を示す証拠として
- 万が一、災害が発生した場合の原因究明や再発防止策の検討資料として
定期的な見直し(レビュー)
リスクアセスメントは一度実施したら終わりではありません。
以下のような場合に、定期的にまたは随時見直しを行う必要があります。
- 法律で定められた時期(例:1年以内ごと)
- 機械設備、原材料、作業方法などを変更したとき
- 新たな知見(技術情報、災害事例など)が得られたとき
- 労働災害やヒヤリハットが発生したとき
- 前回のリスクアセスメントから一定期間が経過したとき
このように、リスクアセスメントは、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を回しながら継続的に改善していく活動です。
わかりやすく言えば、「一度きりの大掃除ではなく、定期的なお掃除とメンテナンスを続けること」に似ています。
この継続的な取り組みこそが、職場の安全衛生水準を真に向上させる鍵となります。
以上が、リスクアセスメントの具体的な手順です。各ステップを着実に実行することで、職場のリスクを効果的に管理し、安全で健康的な作業環境を実現することができます。
次の章では、これらの手順を実践する上での重要なポイントや注意点について解説します。
リスクアセスメント実施時の重要ポイントと注意点をわかりやすく整理
前章では、リスクアセスメントの具体的な手順をステップバイステップで解説しました。
これで、「リスクアセスメントとは何か」という問いに対する理解に加え、どのように進めていけば良いかという実践的なイメージも掴めてきたのではないでしょうか。
しかし、手順通りに進めるだけでは、必ずしも効果的なリスクアセスメントが実現できるとは限りません。
その過程には、押さえておくべきいくつかの重要なポイントと注意点が存在します。
この第4章では、リスクアセスメントをより実効性の高いものにするために、実施時に特に意識すべきポイントや陥りやすい注意点について、わかりやすく整理して解説します。
これらのポイントを理解し、実践することで、形式的な活動に終わらせず、真に職場の安全衛生向上に貢献するリスクアセスメントを目指しましょう。
リスクアセスメントを成功させるための重要ポイント
効果的なリスクアセスメントを実施し、職場の安全性を高めるためには、以下のポイントを意識することが重要です。
経営トップの強いリーダーシップとコミットメント
リスクアセスメントは、経営層がその重要性を深く認識し、積極的に推進する姿勢を示すことから始まります。
トップ自らが安全衛生方針を明確に打ち出し、必要な経営資源(人、物、金、時間)を配分し、活動全体を支援することが不可欠です。
トップのコミットメントは、従業員の意識を高め、活動への協力を得るための最大の推進力となります。
「社長が本気なら、社員も本気になる」のです。
従業員の積極的な参加と協力(全員参加型)
リスクアセスメントは、一部の担当者だけで行うものではありません。
実際に現場で作業している従業員こそが、日々の業務に潜む危険性や有害性を最もよく知っています。
彼らの知識、経験、意見を最大限に引き出すことが、質の高いリスクアセスメントには不可欠です。
危険源の特定、リスクの見積もり、対策の検討・実施の各段階で、従業員が主体的に参加できる仕組みを作ることが重要です。
例えば、小集団活動(QCサークル活動のようなもの)や意見箱の設置、ヒアリングの実施などが考えられます。
「現場の声こそ宝の山」と心得ましょう。
現実的かつ具体的なアプローチ
理想論や抽象論に終始せず、自社の規模や業種、作業の実態に合った、現実的で具体的なアプローチを心がけることが大切です。
最初から完璧を目指さず、できるところから着実に進めることが継続の秘訣です。
また、特定された危険源や評価されたリスク、検討される対策も、具体的で誰にでも理解できるように表現する必要があります。
「背伸びしすぎず、地に足のついた活動」が長続きします。
コミュニケーションの活性化
リスクアセスメントのプロセス全体を通じて、関係者間の十分なコミュニケーションが求められます。
経営層と従業員、部門間、上司と部下など、様々なレベルでの情報共有や意見交換を活発に行うことで、認識のズレを防ぎ、より実効性のある対策を生み出すことができます。
定期的な会議の開催、報告・連絡・相談の徹底、安全衛生委員会の活用などが有効です。
「風通しの良い職場は、安全な職場」にもつながります。
継続的な改善(PDCAサイクル)の意識
前章でも触れましたが、リスクアセスメントは一度実施して終わりではありません。
作業方法の変更、新しい機械の導入、法改正、災害事例の発生など、職場環境は常に変化します。
これらの変化に対応し、常に最適な安全状態を維持するためには、定期的な見直しと改善を繰り返すPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を回していくことが不可欠です。
「安全対策にゴールはない」という意識を持ち続けましょう。
ポジティブなアプローチと成功体験の共有
リスクアセスメントは、「ダメ出し」や「犯人探し」の活動ではありません。
職場の問題点を改善し、より安全で働きやすい環境を作るための前向きな取り組みです。
小さな改善でも、その成果を認め合い、成功体験を共有することで、従業員のモチベーションを高め、活動への積極的な参加を促すことができます。
「できたことを褒め合う文化」が大切です。
記録の適切な作成と活用
リスクアセスメントの過程と結果を適切に記録し、保管することは、法令遵守だけでなく、教育訓練、情報共有、継続的な改善活動、そして万が一の際の対応において非常に重要です。
記録は、単なる義務としてではなく、「組織の知恵袋」として活用する意識を持ちましょう。
これらのポイントは、「リスクアセスメントとは、組織文化を育む活動でもある」ことを示唆しています。
安全を最優先する文化が根付けば、リスクアセスメントはより自然に、そして効果的に機能するようになるでしょう。
リスクアセスメント実施時に陥りやすい注意点と対策
一方で、リスクアセスメントを実施する際には、いくつかの落とし穴や注意すべき点があります。
これらを事前に認識し、対策を講じることで、よりスムーズで有意義な活動にすることができます。
注意点1:形式化・マンネリ化
陥りやすい状況
最初は熱心に取り組んでいても、回数を重ねるうちに「書類を作成するだけ」「毎年同じことの繰り返し」といった形式的な活動になってしまうことがあります。
これでは、新たな危険源の見逃しや、実効性のない対策につながりかねません。
対策
- 定期的にメンバーを入れ替えたり、外部の専門家の意見を取り入れたりして、視点の固定化を防ぐ。
- ヒヤリハット事例や他社事例など、新しい情報を常にインプットし、検討の材料とする。
- リスクアセスメントの成果(災害件数の減少、改善事例など)を具体的に示し、活動の意義を再認識させる。
- 「なぜこの作業が必要なのか?」という原点に立ち返って議論する機会を設ける。
注意点2:危険源の見逃しや過小評価
陥りやすい状況
日常的に行っている作業や慣れている環境では、危険性に対する感受性が鈍くなりがちで、見過ごしてしまうことがあります。
また、「これくらい大丈夫だろう」とリスクを甘く見てしまうこともあります。
対策
- 複数の視点(ベテランと新人、異なる部署の担当者など)でチェックする。
- チェックリストを活用し、網羅的に危険源を洗い出す。
- 「かもしれない運転」ならぬ「かもしれない危険予測」を習慣づける。
- 過去の災害事例を参考に、「まさか」が起こりうることを認識する。
- リスクの見積もり基準を明確にし、客観的な判断を心がける。
注意点3:対策の優先順位の誤り
陥りやすい状況
対応しやすい軽微なリスクばかりに目がいってしまい、重大なリスクへの対策が後回しになったり、費用がかかるからといって本質的な対策を避けたりすることがあります。
対策
- リスクマトリックスなどを用いて客観的にリスクレベルを評価し、優先順位を決定する。
- 対策の優先順位(除去・代替 → 工学的対策 → 管理的対策 → 個人用保護具)の原則を常に意識する。
- 短期的なコストだけでなく、長期的な視点(事故発生時の損失など)も考慮して対策を検討する。
注意点4:対策が実行されない、または形骸化する
陥りやすい状況
リスクアセスメントで立派な対策を計画しても、それが実行に移されなかったり、最初は実行されても時間とともに守られなくなったりすることがあります。
対策
- 対策の実施責任者、期限、具体的な実施内容を明確にする。
- 対策の進捗状況を定期的に確認し、フォローアップする体制を整える。
- なぜその対策が必要なのか、従業員に十分に説明し、理解と協力を得る。
- 対策が守られているか、定期的にパトロールなどで確認する。
- 対策が作業実態に合わない場合は、見直してより実行しやすいものに改善する。
注意点5:従業員の参加が得られない
陥りやすい状況
経営層や一部の担当者だけで進めてしまい、現場の従業員が「やらされ感」を抱いてしまうと、積極的な協力が得られず、実態に即したリスクアセスメントが難しくなります。
対策
- リスクアセスメントの目的やメリットを丁寧に説明し、従業員の当事者意識を高める。
- 従業員が意見を出しやすい雰囲気や仕組みを作る(匿名アンケート、少人数での話し合いなど)。
- 従業員からの提案や改善意見を積極的に取り上げ、フィードバックする。
- リスクアセスメントのプロセスに従業員代表を参加させる。
これらの注意点を事前に把握し、対策を講じることで、リスクアセスメントはより効果的で意味のある活動になります。
「リスクアセスメントとは、失敗から学び、改善を続ける旅である」という姿勢で、粘り強く取り組むことが大切です。
次の章では、これらの手順やポイントを踏まえて、実際に様々な分野でどのようにリスクアセスメントが活用されているのか、具体的な事例を紹介していきます。
より実践的なイメージを掴む手助けとなるでしょう。
【具体例集】様々な場面でのリスクアセスメント活用事例をわかりやすく紹介
これまでの章で、「リスクアセスメントとは何か」という基礎知識から、その目的、手順、さらには実施上の重要ポイントや注意点に至るまで、わかりやすく解説を進めてきました。
理論や手順を理解することも大切ですが、実際にそれがどのように活用されているのか、具体的なイメージを持つことで、より深くリスクアセスメントの意義を捉えることができます。
この第5章では、様々な業種や場面におけるリスクアセスメントの具体的な活用事例を紹介します。
これらの事例を通じて、「なるほど、こういう風に役立っているのか」「自分たちの職場でもこんな風に応用できるかもしれない」といった気づきを得ていただければ幸いです。
「リスクアセスメントとは、教科書の中だけの話ではなく、私たちのすぐそばで活かされている知恵である」ことを感じてください。
製造業におけるリスクアセスメント事例
製造業は、多種多様な機械設備や化学物質を使用し、複雑な作業工程があるため、リスクアセスメントが特に重要となる分野の一つです。
事例1:プレス機械作業の安全対策
背景: ある金属加工工場では、プレス機械を使った作業で、過去に指を挟む事故(挟まれ・巻き込まれ災害)が発生したことはないものの、ヒヤリとした経験を持つ作業員がいました。
リスクアセスメントの実施
- 危険源の特定
- プレス機械の金型部分への手の接近
- 誤操作による機械の突然の起動
- 安全装置(光線式安全装置、両手操作式起動装置など)の不備や故障
- リスクの見積もり
- 発生可能性:安全装置が適切に機能していれば「低」だが、万一故障した場合や不安全行動があった場合は「中」。
- 結果の重大性:指の切断など「重大」または「致命的」。
- 総合評価:対策前は「高(IV)」のリスクと判断。
- リスク低減措置の検討と実施:
- 工学的対策
- 光線式安全装置が確実に作動するか毎日始業前点検を義務化し、記録する。
- 金型の交換作業など、特に危険な作業時は必ず機械の主電源を切り、ロックアウト(施錠)およびタグアウト(表示)を行う手順を確立。
- 古いプレス機については、より安全性の高いインターロック付きガード(扉を閉めないと作動しない装置)の設置を検討。
- 管理的対策
- プレス作業の安全作業標準を改訂し、KYT(危険予知訓練)を定期的に実施。
- 二人作業時の合図確認の徹底。
- 安全装置の正しい使用方法に関する再教育。
- 個人用保護具: (直接的な対策ではないが)適切な保護手袋の着用。
- 工学的対策
- 残留リスクの評価: 上記対策実施後、リスクは「低(II)」まで低減されたと評価。ただし、定期的な点検と教育の継続が必要。
成果: この取り組みにより、作業員の安全意識が向上し、ヒヤリハットも減少。安心して作業に取り組める環境が整備されました。まさに「リスクアセスメントとは、安全な作業環境をデザインすること」を体現した例です。
建設業におけるリスクアセスメント事例
建設現場は、高所作業、重機作業、土砂崩壊など、多くの危険が伴う場所です。
リスクアセスメントは、労働災害を防止するために不可欠です。
事例2:足場からの墜落防止対策
背景: ある建設現場で、外壁塗装のための足場組立・解体作業がありました。過去の業界データでは、足場からの墜落は死亡災害に繋がるケースが多いことがわかっています。
リスクアセスメントの実施:
- 危険源の特定
- 足場の組立・解体・変更時の墜落
- 作業床、手すり、中さん、幅木などの不備
- 悪天候(強風、雨、雪)時の作業
- 昇降設備の不備
- 保護帽、安全帯(墜落制止用器具)の不使用または不適切な使用
- リスクの見積もり
- 発生可能性:対策を怠れば「中」~「高」。
- 結果の重大性:「致命的」。
- 総合評価:対策前は「極高(V)」のリスクと判断。
- リスク低減措置の検討と実施
- 除去・代替
- 可能な限り、地上で組み立てられる部材を増やし、高所での危険作業を減らす。
- 手すり先行工法など、より安全な足場の組立方法を採用する。
- 工学的対策
- 足場の組立図を作成し、それに基づいて組み立てる。
- 作業床は隙間なく設置し、十分な強度と幅を確保する。
- 手すり、中さん、幅木を確実に設置する。
- 安全な昇降設備(階段など)を設置する。
- 管理的対策
- 足場の組立等作業主任者を選任し、その指揮のもと作業を行う。
- 作業開始前に足場の安全点検を実施し、記録する。
- 悪天候時には作業を中止する基準を明確にする。
- 作業員への特別教育を実施し、安全帯(墜落制止用器具)の正しい使用方法を徹底する。
- KY活動(危険予知活動)を毎日実施する。
- 個人用保護具
- 保護帽、安全靴、そして最も重要な安全帯(墜落制止用器具)を必ず着用させる。フルハーネス型の使用を推奨。
- 除去・代替
- 残留リスクの評価: 徹底した対策によりリスクは「中(III)」程度まで低減。しかし、依然として注意が必要な作業であるため、監視と指導を継続。
成果: 現場の安全パトロールを強化し、作業員一人ひとりの安全意識が高まりました。
「リスクアセスメントとは、命を守るための具体的な計画」であることを再認識させる事例です。
医療・福祉施設におけるリスクアセスメント事例
医療・福祉施設では、患者さんや利用者さんの安全確保はもちろん、職員自身の労働安全衛生も重要です。
感染対策、腰痛予防、暴力・ハラスメント対策などが課題となります。
事例3:介護業務における腰痛予防対策
背景: ある介護施設では、多くの介護職員が移乗介助や入浴介助などで腰痛に悩まされていました。これは職業病の一つとして大きな問題です。
リスクアセスメントの実施
- 危険源の特定
- 不適切な姿勢での移乗介助(持ち上げ動作)
- 中腰や前屈み姿勢での長時間の作業(入浴介助、おむつ交換など)
- 介助対象者の急な動きや抵抗
- 福祉用具(リフト、スライディングボードなど)の不使用または不適切な使用
- 十分な休憩が取れない作業スケジュール
- リスクの見積もり
- 発生可能性:日常的にこれらの作業があるため「高」。
- 結果の重大性:慢性的な腰痛、ぎっくり腰による休業など「重大」。
- 総合評価:対策前は「高(IV)」~「極高(V)」のリスクと判断。
- リスク低減措置の検討と実施
- 代替・工学的対策
- 人力だけに頼らず、リフトやスライディングボード、スタンディングエイドなどの福祉用具を積極的に導入し、その使用方法を徹底的に教育する。
- ベッドの高さを作業しやすいように調整できる電動ベッドを導入する。
- 浴室やトイレに手すりを設置し、利用者の自立を促すことで介助量を減らす。
- 管理的対策
- ノーリフティングケア(持ち上げない看護・介護)の方針を導入し、職員に教育する。
- 正しいボディメカニクス(身体の使い方)に関する研修を定期的に実施する。
- 複数人で介助を行う体制を整備する(一人での無理な介助を避ける)。
- 適切な休憩時間を確保し、ストレッチなどを推奨する。
- 腰痛予防体操の導入。
- 代替・工学的対策
- 残留リスクの評価: 対策により腰痛発生の報告は減少傾向に。リスクは「中(III)」程度に低減。福祉用具のメンテナンスと継続的な教育が重要。
成果: 職員の身体的負担が軽減され、腰痛による休職者が減少。働きやすい環境づくりが進みました。「リスクアセスメントとは、働く人の健康を守るための知恵」でもあります。
PICKUPキャリコン
オフィスワークにおけるリスクアセスメント事例
一見安全そうに見えるオフィスでも、VDT作業による健康障害、長時間労働によるメンタルヘルス不調、通勤災害、地震などの自然災害といったリスクが存在します。
事例4:VDT作業(パソコン作業)による健康障害予防
背景: IT企業で働く多くの従業員が、長時間のパソコン作業により、眼精疲労、肩こり、腰痛、さらにはメンタルヘルスの不調を訴えるケースが増えていました。
リスクアセスメントの実施
- 危険源の特定
- 長時間の連続したディスプレイ注視
- 不適切な作業姿勢(椅子の高さ、机とのバランス、画面の位置)
- 不適切な照明(暗すぎる、明るすぎる、反射光)
- 乾燥した室内環境によるドライアイ
- 作業間の休憩不足
- リスクの見積もり
- 発生可能性:毎日長時間作業するため「高」。
- 結果の重大性:眼精疲労、頸肩腕症候群、腰痛は「中程度」、メンタルヘルス不調は「重大」にもなりうる。
- 総合評価:放置すれば「高(IV)」のリスク。
- リスク低減措置の検討と実施
- 工学的対策
- 個々の体格に合わせて調整可能な椅子や机を導入する。
- ディスプレイの高さや角度を調整できるモニターアームの導入を推奨。
- ブルーライトカットフィルターやメガネの使用を推奨。
- 室内の照明を適切に調整し、反射光を防ぐブラインドなどを設置。
- 加湿器を設置し、適切な湿度を保つ。
- 管理的対策
- 厚生労働省のVDT作業ガイドラインに基づき、連続作業時間(1時間以内)と作業休止時間(10~15分)の目安を周知し、休憩を促す。
- 作業中にできる簡単なストレッチや体操を奨励する。
- VDT作業に関する健康診断を定期的に実施する。
- メンタルヘルス相談窓口の設置や産業医面談の機会を提供する。
- 在宅勤務者に対しても同様の配慮と情報提供を行う。
- 工学的対策
- 残留リスクの評価: 対策により、従業員からの不調の訴えは減少。リスクは「低(II)」~「中(III)」に低減。継続的な啓発と環境整備が重要。
成果: 従業員の作業環境が改善され、健康維持への意識が高まりました。「リスクアセスメントとは、見えない疲れやストレスにも目を向けること」を示しています。
これらの事例はほんの一部です。
飲食店における食中毒予防、運送業における交通事故防止、学校における児童・生徒の安全確保など、あらゆる場面でリスクアセスメントの考え方は応用可能です。
「リスクアセスメントとは何かを理解し、それを自分たちの状況に置き換えて考えること」が、安全で安心な環境を築くための第一歩となります。
これらの事例が、皆様の職場や活動におけるリスクアセスメント導入のヒントとなれば幸いです。
リスクアセスメントと法律・規格の関係性をわかりやすく紐解く
これまで、「リスクアセスメントとは何か」という基本的な問いから、その目的、手順、具体的な活用事例に至るまで、わかりやすく解説してきました。
リスクアセスメントが、単なる推奨事項ではなく、時には法的な義務や国際的な標準に深く関わっていることをご存知でしょうか?
この第6章では、「リスクアセスメントと法律・規格の関係性」に焦点を当て、日本の労働安全衛生法における位置づけや、国際的な安全衛生マネジメントシステム規格(例:ISO 45001)との関連について、そのつながりを紐解いていきます。
法律や規格を理解することは、リスクアセスメントをより正しく、そして効果的に実施するための重要な基盤となります。
「リスクアセスメントとは、社会的なルールの中でその役割を果たしている」という側面を学んでいきましょう。
日本の法律におけるリスクアセスメント:労働安全衛生法の規定
日本において、職場の安全衛生に関する最も基本的な法律は「労働安全衛生法(安衛法)」です。
この法律は、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進することを目的としています。
そして、この目的を達成するための具体的な手段の一つとして、リスクアセスメントの実施が事業者に求められています。
労働安全衛生法第28条の2(危険性又は有害性等の調査等)
平成18年(2006年)の法改正により、リスクアセスメントの実施が努力義務として規定されました。
具体的には、事業者は、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等を調査し(これがリスクアセスメントに該当します)、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない、とされています。
わかりやすく言うと、「会社は、職場にどんな危ないことや体に悪いことがあるかを調べて(リスクアセスメント)、その結果をもとに、法律で決められた対策はもちろん、それ以外にも必要な安全対策や健康対策をしっかりやりなさいね。努力してくださいね」ということです。
特定の業種や作業では努力義務から「義務」へ
さらに重要な点として、特定の危険性の高い化学物質を製造・取り扱いする事業者や、特定の機械設備を使用する事業者などに対しては、リスクアセスメントの実施とその結果に基づく措置が「義務」として課せられています。
これに違反した場合には、罰則が科されることもあります。
対象となる化学物質や機械は、労働安全衛生規則や関連する政省令で具体的に定められています。
- 対象となる化学物質の例: 発がん性のある物質、爆発性の物質、急性毒性の高い物質など、約670種類(2024年時点、今後も追加される可能性あり)。これらの物質を製造したり、扱ったりする場合には、リスクアセスメントを実施し、その結果、労働者に健康障害を生じさせるおそれがある場合には、ばく露(労働者が化学物質にさらされること)の程度を最小限度にするための措置を講じなければなりません。
- 対象となる機械の例: プレス機械、シャー(切断機)、研削盤、木材加工用丸のこ盤など、挟まれ・巻き込まれ等の危険性が高い機械。これらの機械を新たに導入したり、改造したり、作業方法を変更したりする際には、リスクアセスメントが求められることがあります。
このように、リスクアセスメントは、一部の事業者にとっては努力義務に留まらず、法的に遵守しなければならない明確な義務となっているのです。
したがって、「リスクアセスメントとは、法律を守り、従業員の安全を守るための企業の責任である」と認識する必要があります。
労働安全衛生法のその他の関連規定
安衛法には、リスクアセスメント以外にも、安全衛生管理体制の確立(総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医などの選任)、安全衛生教育の実施、健康診断の実施、作業環境測定の実施など、労働者の安全と健康を守るための様々な規定があります。
リスクアセスメントは、これらの活動と連携し、補完し合うことで、より効果的に機能します。
例えば、リスクアセスメントの結果、特定の化学物質へのばく露リスクが高いと判断されれば、作業環境測定を強化したり、特殊健康診断の対象としたりするなどの措置につながります。
国際規格とリスクアセスメント:ISO 45001(労働安全衛生マネジメントシステム)
グローバルに事業を展開する企業や、より高いレベルの安全衛生管理を目指す企業の間で注目されているのが、ISO 45001という国際規格です。
これは、労働安全衛生に関するマネジメントシステム(仕組み)の国際標準規格であり、2018年に発行されました。
ISO 45001とは?
ISO 45001は、組織が労働安全衛生パフォーマンスを向上させ、労働災害や疾病を防止し、安全で健康的な職場を提供するための枠組みを提供するものです。
この規格の核心部分には、リスクアセスメントの考え方が深く組み込まれています。
わかりやすく言うと、ISO 45001は、「会社が従業員の安全と健康を守るために、どんなルールや仕組みを作って、どうやってそれを実行し、ちゃんとできているかチェックして、もっと良くしていくか、という一連のやり方を世界共通の基準で示したもの」です。
そして、その「ルールや仕組み」の中心にリスクアセスメントがあるのです。
ISO 45001におけるリスクアセスメントの位置づけ
- 危険源の特定とリスクアセスメントのプロセス: ISO 45001では、組織が業務に関連する危険源を特定し、それらの危険源から生じる労働安全衛生リスク及びその他のリスクを評価するためのプロセスを確立し、実施し、維持することを要求しています。これは、まさにこれまで説明してきたリスクアセスメントの手順そのものです。
- 法的及びその他の要求事項の決定: 組織が遵守すべき法的要求事項(日本の安衛法など)や、その他の要求事項(業界団体の指針、顧客からの要求など)を特定し、それらをリスクアセスメントのプロセスに反映させることも求められます。
- リスク及び機会への取組み: 特定されたリスクに対して、それを低減するための管理策(コントロール)を計画し、実施します。また、リスクだけでなく、「機会」(例えば、安全性を向上させることで生産性が向上する可能性など)も特定し、取り組むことが奨励されています。
- 継続的改善: ISO 45001もPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)の考え方に基づいており、労働安全衛生マネジメントシステム全体のパフォーマンスを継続的に改善していくことを目指します。リスクアセスメントの結果は、この改善活動の重要なインプットとなります。
ISO 45001の認証を取得することは、企業が国際的な基準に沿った労働安全衛生管理を行っていることの証明となり、企業価値の向上、取引先からの信頼獲得、従業員のモチベーション向上などに繋がります。
そして、その認証取得のためには、効果的なリスクアセスメントの実施が不可欠です。
「リスクアセスメントとは、世界標準の安全管理を実現するための鍵である」と言えるでしょう。
その他の関連規格や指針
労働安全衛生法やISO 45001以外にも、リスクアセスメントに関連する国内の指針や業界ごとのガイドライン、海外の規格などが存在します。
- 厚生労働省の指針: 厚生労働省は、「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」を公表しており、リスクアセスメントの具体的な進め方や評価方法、記録様式例などを詳細に示しています。これは、日本の事業者がリスクアセスメントを実施する上で最も基本的な参考資料となります。
- 業種別のガイドライン: 建設業、製造業、陸上貨物運送事業など、特定の業種向けに、その業種の特性に応じたリスクアセスメントの実施方法や危険源の例を示したガイドラインが、業界団体や関係省庁から出されています。
- 機械の包括的な安全基準に関する指針(ISO 12100など): 機械設備を設計・製造する際には、その機械が使用される全ライフサイクル(設計、製造、輸送、据付、運転、保守、廃棄)を通じて安全を確保するためのリスクアセスメントが求められます。ISO 12100(機械類の安全性-設計のための一般原則-リスクアセスメント及びリスク低減)は、そのための国際規格です。
これらの法律、規格、指針は、リスクアセスメントを形式的なものにせず、実効性のあるものにするための道しるべとなります。
自社の状況に合わせて、これらの情報を適切に活用し、より質の高いリスクアセスメントを目指すことが重要です。
「リスクアセスメントとは、先人たちの知恵と経験の結晶である」とも言えるかもしれません。
これらのルールや指針を学ぶことで、私たちはより安全な未来を築くことができるのです。
法的な義務があるから、あるいは規格認証のためだけにリスクアセスメントを行うのではなく、その本質的な目的である「労働者の安全と健康の確保」を常に念頭に置き、これらのルールを有効活用していく姿勢が求められます。
リスクアセスメントを効果的に!役立つツールと手法をわかりやすく解説
これまでの各章を通じて、「リスクアセスメントとは何か」という基本から、その目的、具体的な手順、実施上のポイント、さらには法律や規格との関連性まで、多角的に、そしてわかりやすく解説してきました。
リスクアセスメントの重要性とその全体像は、かなり明確になったのではないでしょうか。
最終章となるこの章では、リスクアセスメントをより効果的かつ効率的に進めるために役立つツールや手法について、具体的に紹介します。
リスクアセスメントは、時に複雑で手間のかかる作業になることもありますが、適切なツールや手法を活用することで、その負担を軽減し、より質の高い結果を得ることが可能になります。
「リスクアセスメントとは、賢い道具を使って、よりスマートに進めることができる活動である」という視点を持っていただければと思います。
リスクアセスメントを支援する基本的なツール
リスクアセスメントの各ステップをサポートするための基本的なツールや様式があります。
これらは、情報を整理し、評価を標準化し、記録を残す上で非常に役立ちます。
- 1. リスクアセスメントシート(記録様式)
- 概要: リスクアセスメントのプロセス全体(危険源の特定、リスクの見積もり、リスク低減措置の内容、残留リスクの評価など)を記録するための様式です。厚生労働省の指針にも様式例が示されており、企業が独自にカスタマイズして使用することも一般的です。
- わかりやすく言うと: 「職場の危険を発見して、対策を考えるためのノート」のようなものです。何が危ないか、どれくらい危ないか、どうすれば安全になるかを書き込んでいきます。
- 活用ポイント:
- 統一された様式を使うことで、評価基準のブレを防ぎ、情報を比較しやすくなります。
- 過去の記録を参照することで、改善の経緯を追跡したり、新たなリスクアセスメントの参考にしたりできます。
- WordやExcelなどの表計算ソフトで作成すれば、データの集計や管理が容易になります。
- 2. チェックリスト
- 概要: 特定の作業や設備、環境について、あらかじめ確認すべき項目をリスト化したものです。危険源の特定漏れを防いだり、点検作業を標準化したりするのに役立ちます。
- わかりやすく言うと: 「忘れ物がないか確認する持ち物リスト」や「飛行機のパイロットが離陸前に行う確認リスト」のようなものです。これを見ながらチェックすることで、大事なことを見逃しません。
- 活用ポイント:
- 法令で定められた点検項目や、過去の災害事例、自社の経験などに基づいて作成します。
- 業種別、作業別、設備別に特化したチェックリストを作成すると、より効果的です。
- 定期的に内容を見直し、最新の情報や状況に合わせて更新することが重要です。
- 3. ヒヤリ・ハット報告書/KY(危険予知)活動シート
- 概要: 実際に災害には至らなかったものの、「ヒヤリとした」「ハッとした」体験(ヒヤリ・ハット)や、作業前に危険を予測し対策を話し合うKY活動の結果を記録するものです。これらは、潜在的な危険源を発見するための貴重な情報源となります。
- わかりやすく言うと: 「危うく事故になりそうだった体験談を集めるノート」や、「これからやる作業の危ないところをみんなで話し合ったメモ」です。
- 活用ポイント:
- 報告しやすい雰囲気を作り、些細なことでも積極的に報告してもらうことが大切です。匿名での報告を可能にするのも一つの方法です。
- 集められた情報は、リスクアセスメントの危険源特定や対策検討の際に活用します。
- 良い改善提案につながった事例などを共有し、活動を奨励します。
- 4. 安全データシート(SDS:Safety Data Sheet)
- 概要: 化学物質の危険性や有害性、取り扱い上の注意、緊急時の対応などが記載された文書です。化学物質を取り扱う職場では、リスクアセスメントを実施する上で必須の情報源となります。
- わかりやすく言うと: 「化学物質の取扱説明書」のようなもので、その物質がどんな性質で、どう扱えば安全か、もしもの時はどうすればいいかが書かれています。
- 活用ポイント:
- 化学物質を新たに導入する際には必ずSDSを入手し、内容を確認します。
- 作業者がいつでもSDSを閲覧できるように、職場に備え付けたり、オンラインでアクセスできるようにしたりします。
- SDSの情報に基づいて、適切な保護具の選定や作業手順の作成を行います。
これらの基本的なツールは、特別な専門知識がなくても比較的容易に導入・活用できます。まずはこれらのツールを整備し、使いこなすことから始めるのが良いでしょう。
「リスクアセスメントとは、情報を整理し、共有することから始まる」のです。
PICKUPキャリコン
リスクを見積もるための代表的な手法
リスクの大きさ(発生可能性と結果の重大性)を見積もる際には、いくつかの代表的な手法があります。
第3章でも触れましたが、ここではもう少し詳しく紹介します。
- 1. マトリックス法
- 概要: 「発生する可能性」と「結果の重大性」をそれぞれ数段階に区分し、それらを縦軸と横軸にとった表(マトリックス)を用いてリスクレベルを評価する手法です。直感的でわかりやすく、広く用いられています。
- わかりやすく言うと: 「可能性の大きさと被害の大きさを掛け算表みたいにして、危なさのランクを決める方法」です。
- 活用ポイント:
- 可能性と重大性の段階区分や、各区分の定義を事前に明確にしておくことが重要です。
- リスクレベルの判定基準(例:レベルIV以上は優先的に対策するなど)も設定しておきます。
- 業種や評価対象に合わせて、マトリックスの項目数や内容を調整することができます。
- 2. 加算法(または点数化法)
- 概要: 「発生する可能性」「結果の重大性」に加えて、場合によっては「危険源への暴露頻度」などの評価項目を設け、それぞれに点数を割り当て、それらを足し合わせたり掛け合わせたりしてリスクの大きさを数値化する手法です。
- わかりやすく言うと: 「危なさの要素ごとに点数をつけて、合計点や掛け算で危なさの度合いを出す方法」です。
- 活用ポイント:
- 各評価項目や点数の設定には、ある程度の客観性や根拠が必要です。
- マトリックス法よりも詳細な評価が可能ですが、設定が複雑になる場合もあります。
- 数値化されるため、リスクの優先順位付けがしやすいというメリットがあります。
- 3. シナリオ分析法
- 概要: 特定の危険源から、どのような経緯で災害に至るかという一連のシナリオ(筋書き)を想定し、そのシナリオごとに発生可能性と結果の重大性を評価する手法です。事故の連鎖や複合的な要因を考慮するのに役立ちます。
- わかりやすく言うと: 「もしこんなことが起きたら、次にこうなって、最終的にこんな大事故に…という物語を考えて、それぞれの場面の危なさを評価する方法」です。
- 活用ポイント:
- 特に重大な災害につながる可能性のあるリスクや、複数の要因が絡み合う複雑なリスクの評価に適しています。
- FTA(Fault Tree Analysis:故障の木解析)やETA(Event Tree Analysis:事象の木解析)といった、より専門的な分析手法と組み合わせて用いられることもあります。
これらの手法は、どれか一つだけが絶対的に正しいというものではありません。
評価するリスクの性質や、利用できる情報、評価者の経験などに応じて、適切な手法を選択したり、組み合わせたりすることが重要です。
「リスクアセスメントとは、状況に応じた最適な評価方法を選ぶこと」も含まれます。
より専門的なリスクアセスメント手法(参考)
上記以外にも、特定の目的や分野で用いられる、より専門的で高度なリスクアセスメント手法があります。
ここでは名称と簡単な紹介に留めますが、必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら活用を検討するのも良いでしょう。
- HAZOP(Hazard and Operability Study:ハゾップ): 主に化学プラントなどのプロセス産業で用いられ、設計仕様からの「ずれ」がどのような危険な事態を引き起こすかを体系的に検討する手法。
- FMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析): 機械やシステムを構成する部品や要素が故障した場合に、システム全体にどのような影響を与えるかを分析し、対策を講じる手法。
- FTA(Fault Tree Analysis:故障の木解析): ある望ましくない事象(例:爆発)が発生する原因を、樹形図(ツリー)のように下位の事象へと分解していき、その発生確率を解析する手法。
- ETA(Event Tree Analysis:事象の木解析): ある初期事象(例:火災発生)から始まり、安全装置の作動・不作動などの分岐を経て、最終的にどのような結果に至るかを樹形図で分析する手法。
これらの専門的な手法は、特定の高度なリスク分析には非常に有効ですが、実施には専門知識や経験が求められることが多いです。
「リスクアセスメントとは、時には専門家の力を借りて深掘りすることも必要」ということです。
リスクアセスメント支援ソフトウェアやアプリ
近年では、リスクアセスメントの実施を支援するためのソフトウェアやクラウドベースのアプリケーションも登場しています。
これらのツールは、以下のような機能を提供することで、リスクアセスメント業務の効率化や質の向上に貢献します。
- 記録様式の電子化とデータベース管理
- リスク評価の自動計算やマトリックス表示
- 対策の進捗管理や期限管理
- 過去データの分析やレポート作成機能
- 法令情報やSDS情報との連携
わかりやすく言うと: 「リスクアセスメント専用の便利なアプリやパソコンソフト」で、記録や評価、進捗管理などを楽にしてくれます。
ただし、これらのツールはあくまで支援的なものであり、ツールを導入すれば全てが解決するわけではありません。
重要なのは、ツールを使う人間の知識や判断力、そして組織としての取り組み姿勢です。
「リスクアセスメントとは、道具を使いこなし、人の知恵を最大限に活かすこと」が本質です。
この章で紹介したツールや手法は、リスクアセスメントをよりスムーズに、そして効果的に進めるための「武器」となります。
自社の状況や目的に合わせて、これらの武器を上手に選択し、活用していくことで、より安全で健康的な職場環境の実現に近づくことができるでしょう。
そして、それが「リスクアセスメントとは何か」という問いに対する、実践を通じた答えとなるはずです。
リスクアセスメント関連書籍一覧
- イラストで学ぶリスクアセスメント/中野洋一
- よくわかるリスクアセスメント オンデマンド/向殿政男
- リスクアセスメントを取り込んだ作業手順書/建設労務安全研究会
- 機械・設備のリスクアセスメント: セーフティ・エンジニアがつなぐ、メーカとユーザのリスク情報/日本機械工業連合会
- 主なき安全~リスクアセスメントの暴走/濱田勉
- 世界に通用する製品安全リスクアセスメント/松本浩二
リスクアセスメント関連サイト一覧
まとめ:リスクアセスメントを未来の安全と成長につなげるために
ここでは、リスクアセスメントの基本的な概念から、その重要性、具体的な進め方、多様な活用事例、関連する法令や規格、そして役立つツールや手法に至るまで、多角的に掘り下げてきました。
「リスクアセスメントとは何か」という問いに対し、読者の皆様がそれぞれの立場で具体的なイメージを持ち、その本質的な価値を「わかりやすく」理解していただけたのであれば、これほど嬉しいことはありません。
リスクアセスメントとは、単なる安全活動の一手法ではありません。
それは、未来に起こりうるかもしれないネガティブな出来事(労働災害、事故、疾病など)を予測し、その発生を未然に防ぐ、あるいは影響を最小限に抑えるための、積極的かつ創造的な問題解決プロセスです。
それは、働く人々の生命と健康を守るという倫理的な要請に応えるだけでなく、企業の生産性向上、法令遵守、社会的信頼の獲得、そして持続的な成長を実現するための経営戦略そのものとも言えるでしょう。
わかるりやすいようにという視点を常に持ちながら解説を進めてきましたが、それはリスクアセスメントの基本的な考え方が、決して一部の専門家だけのものではなく、職場で働くすべての人々、さらには日常生活を送る私たち一人ひとりにとっても身近で重要な概念であることをお伝えしたかったからです。
「危ないかもしれない」と感じる感受性、「どうすれば安全になるだろうか」と考える想像力、そして「実際に改善してみよう」という行動力。
これらは、誰もが持っているはずの能力であり、リスクアセスメントの原点です。
ここで提示した各章の内容を振り返ってみましょう。
- はじめにでは、現代社会におけるリスクアセスメントの重要性を確認しました。
- 第1章では、「リスクアセスメントとは何か」その基本的な定義と予防原則に基づく考え方を解説しました。
- 第2章では、安全な職場環境の実現という主要な目的と、従業員・企業双方にもたらされる多岐にわたるメリットを明らかにしました。
- 第3章では、準備段階から危険源の特定、リスクの見積もり、低減措置の検討・実施、そして記録・見直しに至る具体的な手順をステップごとに詳述しました。
- 第4章では、リスクアセスメントを成功させるための重要ポイント(トップのリーダーシップ、従業員参加など)と、陥りやすい注意点(形式化、過小評価など)を整理しました。
- 第5章では、製造業、建設業、医療・福祉、オフィスワークといった様々な場面での具体的な活用事例を紹介し、実践的なイメージを提供しました。
- 第6章では、労働安全衛生法やISO 45001といった法律・規格との関連性を紐解き、その社会的な位置づけを明らかにしました。
- 第7章では、リスクアセスメントシートやチェックリスト、各種評価手法、支援ソフトウェアなど、活動を効果的に進めるためのツールと手法を紹介しました。
これらの知識は、皆様がこれからリスクアセスメントに取り組む上での羅針盤となるはずです。
しかし、最も重要なのは、これらの知識を実際の行動に移すことです。
小さなことからでも構いません。まずは自分の身の回りにある「ヒヤリ」としたこと、「ハッ」としたことに関心を持つことから始めてみましょう。
そして、それを同僚や上司と共有し、どうすればもっと安全になるかを話し合ってみてください。それが、リスクアセスメントの第一歩です。
企業や組織のリーダーの皆様にとっては、リスクアセスメントを経営の重要課題として位置づけ、必要なリソースを投入し、全社的な取り組みとして推進していくことが求められます。
それは、従業員というかけがえのない財産を守り、企業の持続的な発展を確実なものにするための、最も賢明な投資の一つと言えるでしょう。
「リスクアセスメントとは何かを理解する」ことはスタートラインです。
その知識を活かし、実践し、継続的に改善していくことで、初めてその真価が発揮されます。
ここでの内容が、皆様の職場や組織における安全文化の醸成と、リスクアセスメント活動の活性化に少しでも貢献できたのであれば、筆者として望外の喜びです。
最後に、リスクアセスメントについて、必要とする情報を得られ、そして深い理解と共に満足していただけることを心から願っております。
ここで提供した情報が、皆様の未来の安全と成長の一助となることを信じています。
安全な未来は、誰かが与えてくれるものではなく、私たち自身の手で築き上げていくものです。
リスクアセスメントという強力なツールを手に、より安全で、より健康で、より豊かな未来を共に創造していきましょう。
ご精読ありがとうございました。
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