[最終更新日]2023/02/01
株式会社に勤めている会社員の方の中には「WACC」というビジネス用語で悩んだ方もいらっしゃるのではないでしょうか?
「WACCなんてビジネス用語聞いたこともない」という会社員の方も、当然いらっしゃると思います。
しかし、いずれであっても「WACC」というビジネス用語を知っておいて損はありません。
そんな「WACC」というビジネス用語についてわかりやすく説明いたします。
Contents
WACC(Weighted Average Cost of Capital)/加重平均資本コストについて
WACCとは、Weighted Average Cost of Capitalの頭の文字をとった略称で日本語に訳すると「加重平均資本コスト」と言います。
WACC(Weighted Average Cost of Capital)/加重平均資本コスト(以下WACC)は、資本コストの一般的かつ代表的な計算方法です。
WACCの意味について
WACCは、複数の資金調達方法を実施している企業において、資金調達に伴う費用(コスト)のことです。
大企業や中小企業を問わずに会社を運営するためには資金(お金)が必要です。
資金(お金)を調達する方法は、大きく分けて「銀行など他人からの借り入れ」と「投資家(株主)からの投資」の2つがあります。
銀行など他人からの借り入れを「デット(debt)」、投資家(株主)からの投資を「エクイティ(equity)」と言います。
また、銀行など他人からの借り入れは負債コストや他人資本コスト、有利子負債コストと呼ばれ、投資家(株主)からの投資は株主資本コストや自己資本コストと呼ばれています。
それでは、負債コストや他人資本コスト、有利子負債コストと株主資本コストや自己資本コストについて具体的に見ていきましょう。
負債コスト・他人資本コスト・有利子負債コスト/デット(debt)について
「負債コスト・他人資本コスト・有利子負債コスト/デット(debt)」(以下負債コスト)とは、銀行や信用金庫などの金融機関からの借り入れ、社債の発行の利息のことを言います。
利息が契約した時に確定することがほとんどですので、契約する現時点で適用されている金利を用いる場合が多いのが実情です。
業種や企業規模など様々な条件により異なりますが、平均的には2%前後と言われています。
企業経営において借金は悪いものではない
負債とは簡単に言えば借金です。
日本的な道徳や教育を受けてきた人にとっては、借金は悪いものと捉える傾向が強いのが実情ではないでしょうか?
しかし、企業経営において負債(借金)は悪いものではありません。
借金をせずに利益が出てお金が貯まるまで待つとなると企業は急速に成長することが出来ません。
新しい商品を開発する研究開発費はもちろん、その新商品を製造する設備等、企業が成長するためには投資が必要です。
これは借金は悪いことであるという考えではなく、将来を見据えて投資しているという考えに基づくものです。
スタートアップ企業は負債が多くなりがちですが、それはこれから成長していくという将来に投資をしているからです。
また、一般的に負債が多い企業として、製造業やインフラ事業などが挙げられます。
これをお読みになっている方の会社であっても借入金がゼロの企業はないと言っても間違いではないかと思います。
これは大企業であっても社員が数人の企業であっても同じです。
もちろん、借金の金額の大小はゼロがいくつも違いますが、負債があることは当たり前です。
一度確かめてみるのもWACCを理解するためには良いのかもしれません。
ちなみに、「トヨタ自動車」は売上31兆円で有利子負債は26兆円、「ソフトバンクグループ」は売上6兆円で有利子負債21兆円、「本田技研工業」は売上14兆円で有利子負債は「8兆円」です。 参照:https://www.riskmonster.co.jp/pressrelease/post-13350/
もちろん、過剰で意味のない有利子負債は、利息や返済が必要ですので倒産のリスクが考えられます。
株主資本コストや自己資本コスト/エクイティ(equity)について
「株主資本コストや自己資本コスト/エクイティ(equity)」(以下株主資本コスト)とは、負債コストと違って算出方法が難しいのが実情です。
株主は企業が儲けた利益からの配当だけではなく、株式価格の上昇の両方を期待しています。
なお、配当はインカムゲイン、株式価格の上昇はキャピタルゲインと言います。
この期待利益が、会社にとっての資金の調達費用となります。
しかし、配当や株式価格の上昇が正確にわかるのは将来の企業業績の結果ですので正確な計算がないため算出方法が難しいのです。
そんななかで可能な限り合理的に考えられた期待利益の算出方法がCAPM(キャップエム)です。
ここでCAPM(キャップエム)の詳しい説明は省きますが一般的に株主資本コストは7%〜8%と考えられています。
WACCの計算方法
WACCの計算式は次のとおりです。
WACC(加重平均資本コスト)= rE ✕ E / ( E + D ) + rD( 1 − T ) ✕ D /( E + D )
- rE /株主資本コスト
- E /株主資本
- D /有利子負債総額
- rD /負債コスト(金利)
- T /実効税率
WACCの計算方法の解説
計算式(WACC= rE ✕ E / ( E + D ) + rD( 1 − T ) ✕ D /( E + D )を簡単に解説しますと
E / ( E + D )で株主資本の重要度を示しています。
D /( E + D )で負債の重要度を示しています。
その重要度の割合に書くコストをかけ、合計値を求めることで実態に即した値を算出できるような計算式です。
さらにわなりやすく言いますと「株主資本コストと負債コストをそれぞれの時価で加重平均する」ということです。
また、どうしてT(実行税率)が関係あるのかというと負債の利息は税金を計算する上で損金であり、節税効果があるからです。
WACCの平均について
それでは、WACCの平均はどれくらいの値なのでしょうか?
当然、細かく見ていけば業界・業種により違いますが、一般的にWACCの平均は5%~7%と言われています。
それでは、少し細かく業界・業種について見ていきましょう。
電気やガス、運送業など需要が安定していると言われている業界はWACCは平均より小さい傾向にあります。
また、鉄鋼や機械、鉱業、医薬品業などのトレンドの移り変わりが早く、事業リスクが高いと言われている業界については、WACCは平均より高い傾向にあります。
WACCは、負債を増やしたほうが小さくなりやすい一方で、負債は返済する必要があるために倒産のリスクは増加します。
需要が安定している業界は負債が増加しても倒産リスクは高くない為に負債が多くなりがちでWACCは小さい傾向にあり、事業リスクが高い業界については負債を少なくする傾向が高くなりがちでWACCは高い傾向になるのです。
PICKUPキャリコン
WACCとROIC(Return On Invested Capital)について
ROICとは、Return On Invested Capitalの略でロイックと読みます。
日本語で「投下資本利益率」と言われています。
ROICについての詳細は省きますがROICの計算式は次の通りです。
ROIC=税引後営業利益/投下資本
なお、投下資本は「D/有利子負債総額+E/株主資本」です。
つまり、ROICとは調達したお金でどれくらいの利益を効率的にあげたかどうかを測定する指標です。
他にもROE(株主視点での利益率を測る指標)やROA(全資産を使ってどれだけ純利益をあげたかという指標)には様々な問題がありましたがROEやROAの問題点を解決した指標がROICなのです。
ただ、ROICは概念がやや難解なために現場への導入が難しいとも言われています。
それでは、ROICとWACCはどのような関係性なのでしょうか?
上述したのでご理解されている方もいるとは思いますが、ROICは事業を行った結果に獲得した利益の指標で、WACCは調達した資金を維持するための費用の指標です。
つまり、ROICは「入ってくるお金」WACCは「出ていくお金」を示していて、ROIC>WACCの関係を維持することが望ましいと言えます。
ROICがWACCを上回っている(ROIC>WACC)場合は、期待される収益率以上に高い収益率をあげているということになります。
また、逆にROICがWACCを下回っている(ROIC<WACC)場合は、資金提供者からの調達した資金の価値を毀損しているということになります。
WACCは低い方が良い?
それではWACCは低い方が良いのでしょうか?
WACCは資金を調達するためとは言え、コストですので低い方が良いと言えます。
WACCはどうすれば下がるのか?
それでは、WACCを低下させるためにはどのようにすればよいのでしょうか?
これは数式「WACC=rE✕E/(E+D)+rD(1−T)✕D/(E+D)」からもわかる通り、株主資本コストと負債コストのいずれかもしくは両方を下げるという方法があります。
株主資本コストを下げるためには、事業リスクを低減させ株主に対して事業リスクが低くなっていることを説明するなどの方法が考えられます。
負債コストを下げるためには、債権者に利率の交渉をする、会社に適用される税率を上昇させるなどの方法が考えられます。
ただ、一般的には株主資本コストを下げる方法が取られる傾向にありますが、株主資本コストと負債コストを比較した場合に負債コストの方が低いため、負債比率を上昇させるという場合もありえます。
上述した通りWACCを下げる方法として有利子負債を増加させる方法がありますが、財務的な安全性から考えれば問題があります。それは有利子負債コストが低かったとしても返済義務がある事に変わりはないからです。
反面、株主資本コストは返済義務が無いために資金としての安定性は高いためです。
ただ、企業により様々な状況や考えがあるので一概にいうことは出来ませんが、最も資本コストが低く財務の安全性を損なわない最適な資本構成を考えることが企業として必要なのです。
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WACC(加重平均コスト)関連書籍一覧
- コーポレート・ファイナンス実務の教科書/松田千恵子
- ファイナンスの基本 この1冊ですべてわかる/佐藤公亮
- 武器としての会計ファイナンス 「カネの流れ」をどう最適化して戦略を成功させるか?/矢部謙介
- 図解入門ビジネス 最新 コーポレートファイナンスの基本と実践がよ~くわかる本/松田千恵子
WACC(加重平均コスト)関連サイト一覧
- WACC(加重平均コスト)とは?計算方法と活用法を解説/経理プラス
- WACC(加重平均資本コスト)とは 意味や計算手順をわかりやすく解説/ツギノジダイ
- WACC(加重平均資本コスト)とは?/アドバンストアイ
- 加重平均資本コスト(WACC)/シグマインベストメントスクール
- WACC/みずほ証券&一橋大学大学院経営管理研究科
WACC(加重平均コスト)とは?/意味・計算方法・業界や業種の平均をわかりやすくのまとめ
いかがだったでしょうか?
WACC(加重平均コスト)とは?/意味・計算方法・業界や業種の平均をわかりやすくでした。
企業にとっての資金調達は非常に重要です。
WACC(加重平均コスト)とは?/意味・計算方法・業界や業種の平均をわかりやすくが少しでもお役に立てたのならば幸いです。