[最終更新日]2022/04/10
経済産業省の研究会は、2006年1月に「社会人基礎力に関する研究会‐中間とりまとめ‐」を発表しました。
その研究会の中で、今後の日本を担う産業人材の確保・育成という観点に立ち、職場や地域で求められる能力を「社会人基礎力」としてまとめました。
しかし、「人生100年時代」や「第四次産業革命」の下で、2006年に発表した「社会人基礎力」はむしろその重要性を増しており、有効ですが、「人生100年時代」ならではの切り口・視点が必要となっていました。
こうした状況を踏まえ、平成29年度に開催した「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」において、これまで以上に長くなる個人の企業・組織・社会との関わりの中で、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力を「人生100年時代の社会人基礎力」と新たに定義しました。
社会人基礎力の3つの能力/12の能力要素を内容としつつ、能力を発揮するにあたって、自己を認識してリフレクション(振り返り)しながら、目的、学び、統合のバランスを図ることが、自らキャリアを切りひらいていく上で必要と位置づけられます。
Contents
社会人基礎力がなぜ必要なのか?
「人生 100 年時代」の到来により、個人の働き方・社会参加の在り方は変化・多様化してきます。
これまで以上に、長期にわたり働くことが前提となり、「働く」ことと「学ぶ」ことの一体化が重要となります。他方で、企業寿命は短縮傾向にあるのです。
そういった状況下で、個人が自らのキャリアを企業に委ねるのではなく、自律的なキャリアを開発できる「キャリア権」の在り方も含め、個人が自らのキャリア・働き方に意思と責任を持つとともに、活躍し続けるための環境の整備が求められるようになってきました。
企業としても、個人の働き方の多様化を踏まえ、時間・場所に制約のない勤務やテレワーク、兼業・副業等をはじめとした多様な働き方への柔軟な対応や制度設計を行うとともに、これまでのような、主従関係としての「会社と従業員」の単なる延長線ではない、新たな関係性を構築していくことが必要不可欠。
それに伴い、業務設計の変革(プロジェクト型への移行など)も求められています。
こういった理由から、自己を認識して振り返りながら、目的、学び、統合のバランスを図ることが、それぞれの個人のキャリアを切りひらいていく上で必要なものが社会人基礎力と位置づけられているのです。
それでは「3つの能力と12の能力要素」を項目ごとに説明していきます。なお、12の能力要素は3つの能力の中に記載しています。
【1】前に踏み出す力(アクション)
社会人基礎力3つの能力の1つ目の前に踏み出す力(アクション)とは、一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力の事を言います。
では、そんな前に踏み出す力(アクション)の中の能力要素を説明いたします。
①主体性(12の能力要素の1番目)
物事に進んで取り組む力の事を言います。
自分自身で考える実行する「意志」とも言い換えることが出来ます。
この力を身に着けるためには「当事者としての意識」が必要となります。
会社で働いている時にでも、「自分は『なぜ』この仕事をしているのか?」「この仕事で誰の役に立っているのか?」などを考えると良いでしょう。
責任感が芽生えてくるように、自分自信を分析することが必要となってきます。
指示を待つのではなく、自らやるべきことをみつけて積極的に取り組みましょう。
②働きかけ力(12の能力要素の2番目)
他人に働きかけ巻き込む力を言います。
仕事は一人で出来ません。他人を巻き込んで成果が出ることがほとんどです。
また、専門化が進んでいく社会においては、一人ですることがどんどん限られてきています。
自分が出来る仕事ことを広める努力は必要ですが、自分が出来ない事や足りない事は仲間に補ってもらう事が大切です。
つまり、この働きかけ力にはまず「自分が足りないところ」「自分が苦手としているところ」を理解しておく必要があります。
自分のことを認識しないままでは他人に働きかけることが出来ないからです。
まずは、自分自身を分析し自分自身を知りましょう。
「やろうじゃないか」と呼びかけ、目的に向かって周囲の人々を動かしていきましょう。
③実行力(12の能力要素の3番目)
目的を設定し確実に行動する力を言います。
よく実行するために大事なことは「やる気」「モチベーション」「技能、技術」と言われますが、それだけが実行力になるのではありません。実行力をつけるためには、今行っていることに対する「目的意識」を明確にする必要があります。
何のためにやっているのかという目的意識をしっかりともっていないと、人は何かをはじめたり、継続したりすることが難しくなります。
つまり、ゴールとともに「目的意識」をしっかりと認識してなぜこれをしているのかということも頭にいれた状態で実行しましょう。
【2】考え抜く力(シンキング)
社会人基礎力3つの能力の2つ目の前は考え抜く力(シンキング)とは、疑問を持ち、考え抜く力の事を言います。
では、そんな前に考え抜く力(シンキング)の中の能力要素を説明いたします。
④課題発見力(12の能力要素の4番目)
現状を分析し目的や課題を明らかにする力を言います。
「普通」を疑ってください。「普通」に行っている出来事に疑問を持つことが、隠れた課題を発見する能力につながります。普段の仕事がある程度出来ていたら、それ以上考えずにしなくても自分の仕事や生活に影響はありませんので、自分の課題を発見する機会さえ失ってしまいます。
子どもの時の「どうしてこうなるの?」と親に聞いた方も多いでしょうがあの「どうして?」を思い出してください。
「どうして、この作業を確認する必要があるのだろうか?」「どうして研修を受けなればならないのだろうか?」など日ごろから「どうして?」を見つけましょう。日ごろから穿った見方をする癖が大事です。
目標に向かって、自ら「ここに問題があり、解決が必要だ」と提案しましょう。
⑤計画力(12の能力要素の5番目)
課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力を言います。
計画力とは「事前に問題解決のプロセスを考えておくこと」と、もう一つ「途中で方針転換をすること」の2つに分けて考えることができます。
事前準備のことはご理解いただけると思います。課題を解決するのは経営と同じです。そして、経営で大事なヒト、モノ、カネに合わせて組織作りの面や、人の役割分担などもあらかじめ決めておく必要があります。それをチーム内で共有する具体的な準備をすることです。
対して、「途中での方針転換」は勇気が必要です。先ほど記した、ヒトモノカネなどの準備をした後に、途中で「変更」をするわけですので労力も必要です。
しかし、その労力を抑えるためにはチームの結束力が必要であり、マネジメントする力が必要となります。
課題の解決に向けた複数のプロセスを明確にし、「その中で最善のものは何か」を検討し、それに向けた準備をしましょう。
⑥創造力(12の能力要素の6番目)
新しい価値を生み出す力を言います。
「創造力」はクリエイティブな発想が必要です。今ある常識や固定概念というものを取り払って「新しいものや新しいことを生み出す力」を持ちましょう。
合理的な考えではなく非合理的な考えで思いもつかないことを創造してみましょう。
既存の発想にとらわれず、課題に対して新しい解決方法を考えましょう。
【3】チームで働く力(チームワーク)
社会人基礎力3つの能力の最後のチームで働く力(チームワーク)とは、多様な人々とともに、目標に向けて協力する力の事を言います。
では、そんな前にチームで働く力(チームワーク)の中の能力要素を説明いたします。
⑦発信力(12の能力要素の7番目)
自分の意見をわかりやすく伝える力を言います。
SNSなどに慣れている若者には身に付きやすい能力かもしれません。しかし、SNSなどと違う点があります。それが「自分の意見をいうこと」と「自分の言いたいことをいうこと」は違います。SNSはどちらかというと後者の「自分の言いたいことをいうこと」に分類されます。
では、「自分の意見をいうこと」と「自分の言いたいことをいうこと」は何が違いのでしょか?それは「自分の意見をいうこと」は他者の意見を尊重しつつ、合理的、論理的な思考やデータを基に分析したことを自分の意見を述べることです。
つまり、他人という第三者が関わってきますので簡単な事ではありませんが建設的な議論をする為には必須です。
自分の意見をわかりやすく整理した上で、相手に理解してもらうように的確に伝えましょう。
⑧傾聴力(12の能力要素の8番目)
相手の意見を丁寧に聴く力を言います。
傾聴する時にはポイントがあります。
・質問/深堀していく際にする質問
・姿勢/態度ともいえますが、話を聞く姿勢をとりましょう
・事前準備/事前に聞く内容がわかっている時は事前の準備が必要をしましょう
これを踏まえた傾聴力が求められます。
相手の話やすい環境をつくり、適切なタイミングで質問するなど相手の意見を引き出しましょう。
⑨柔軟性(12の能力要素の9番目)
意見の違いや立場の違いを理解する力を言います。
同じ事柄が起こった際の問題解決策でも、必ず他人と一致するわけではありません。
人とは、主観的な要素を入れた上で偏見も重なり解決策を考えてしまいます。つまり、その主観的な要素と偏見はあなたの解決策にも入っており、他人と意見が一致することは稀なのです。
そのためには、感情と合理性は一旦切り離した上で、議論したり、話し合いをしたりする習慣を実につけましょう。
自分のルールや習慣、やり方に固執するのではなく、相手の意見や立場を尊重し理解しましょう。
⑩状況把握力(12の能力要素の10番目)
自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力を言います。
自分の周囲となると小さな環境のことのみを言っていると思われるかもしれませんが違います。自分以外の他者全般を指し、人だけではなく出来事を把握することも大切です。
自分には関係ないと思われるような出来事にも、常に自分を取り巻く社会のこととの関連性を捉えることが大切です。近くと遠くの両方を理解していなければ、本当の状況を把握できているとは言えません。
また、チームで仕事をするとき、自分がどのような役割をはたすべきかを理解しましょう。
⑪規律性(12の能力要素の11番目)
社会のルールや人との約束を守る力を言います。
道徳の授業や学校で学んだルールを思い出してください。最低限のマナーです。
しかし、法改正が多く「グレーゾーン」と呼ばれる部分がある事も多いですので、その部分を十分に理解しておく必要もあります。もし、誤ってしまっても「知らなかった」では済まないのです。
不倫や浮気など仕事と関係のない事柄でもプライベートでも同様です。絶えず、自分を律して「積極的な規律性」が今の社会では求められています。
⑫ストレスコントロール力(12の能力要素の12番目)
ストレスの発生源に対応する力を言います。
ストレスの解消はストレスの解決とは違います。
ストレスの解消は一時的なものですが、ストレスの解決は永久的なものです。
このストレスコントロール力とは、その両方を指します。解決には時間を要する事が多くありますが、解決だけに力を入れていたのであればストレスはたまる一方です。逆に解消をしていても解決しなければ、永久的に解消しなければならない治療できない病気と同じになります。
つまり、ストレスコントロール力は解消しながら、解決に向けての行動を起こす必要があるのです。
また、ストレスを感じることがあっても、成長の機会だとポジティブに捉えて方の力を抜いて対応するなども解決の方法と言えます。
このストレスコントロール力は現代社会において、昔よりも間違いなく必要となってきています。
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職種によって違う「求められている社会人基礎力」
社会人基礎力ですが、職種によって求められている社会人基礎力は当然違います。
「お店で商品を販売する人」と「工場で商品を作る人」の社会人基礎力が違う事は、容易に想像できるはずです。
それでは、どのような職種に対して「必要な」社会人基礎力は何なのでしょうか?
また、特定の職種に対して「不足しがちな」社会人基礎力」は何なのでしょうか?
「なりたい職業」「興味のある職業」「今働いている職業」など具体的に頭に描いてから見る方が社会人基礎力について理解は深まると思います。
事務・管理系
人事・労務・経理・財務・法務・特許・物流・貿易事務・海外事務・一般事務・医療事務・学校事務・秘書など
事務・管理系に求められる社会人基礎力
規律性
事務・管理系に不足しがちな社会人基礎力
主体性・課題発見力・発信力
企画系
広報・宣伝・商品開発・マーケティング・調査研究・経営企画など
企画系に求められる社会人基礎力
主体性・働きかけ力・計画力・創造力・発信力
企画系に不足しがちな社会人基礎力
とくにない
営業系
顧客開拓・営業推進・販売促進など
営業系に求められる社会人基礎力
主体性・働きかけ力・実行力・発信力・傾聴力・状況把握力・ストレスコントロール力
営業系に不足しがちな社会人基礎力
実行力・計画力
技術・研究系
研究・製造技術・機器設計・土木建築測量設計・品質管理・生産管理・施工管理など
技術・研究系に求められる社会人基礎力
実行力・課題発見力・創造力
技術・研究系に不足しがちな社会人基礎力
働きかけ力・柔軟性
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販売・サービス系
接客・店長・スーパーバイザーバイヤーなど
販売・サービス系に求められる社会人基礎力
傾聴力・柔軟性・規律性
販売・サービス系に不足しがちな社会人基礎力
働きかけ力・実行力・課題発見力・計画力・規律性
専門系
コンサルタント・薬剤師・介護士など
専門系に求められる社会人基礎力
この職種においては特定の社会人基礎力だけが際立って求められていません
専門系に不足しがちな社会人基礎力
傾聴力・柔軟性・状況把握力
金融系
融資資産運用アドバイザー・為替ディーラー・トレーダー・ファイナンシャルプランナー(FP)など
金融系に求められる社会人基礎力
計画力・状況把握力・規律性
金融系に不足しがちな社会人基礎力
働きかけ力・創造力
クリエイティブ系
デザイナー・編集・制作・記者・ライター・ゲームクリエーターなど
クリエイティブ系に求められる社会人基礎力
創造力・柔軟性
クリエイティブ系に不足しがちな社会人基礎力
傾聴力・規律性・ストレスコントロール力
コラム関連で活躍中の国家資格キャリアコンサルタント
IT系
システムエンジニア・システム保守運用・プログラマー・ITコンサルタントなど
IT系に求められる社会人基礎力
課題発見力
IT系に不足しがちな社会人基礎力
主体性・発信力・柔軟性・状況把握力・ストレスコントロール力
まとめ
いかがだったでしょうか?
社会人基礎力のことを少しでもご理解いただけましたでしょうか?
現職で働いていらっしゃる方は、将来を見据えた行動をとる為に求められる社会人基礎力を高めるために活用していただいても、今ご自身で不足しているなと感じている社会人基礎力の向上にお役だてください。
また、大学生や高校生、専門学校生など学生の方は、将来してみたいと考えいてる職種の求められる社会人基礎力を知る事によって、今の自分の持っている社会人基礎力の向上にお役立ていただき、自己研鑽に励んでいただければと思います。
2010年に経済産業省が発表した調査によりますと企業が「求める要素」と学生が「企業が求めていると思う要素」には大きな差異がありました。
- 企業が学生に対し「主体性」「粘り強さ」「コミュニケーション能力」といった「社会人基礎力」など内面的な能力要素が不足していると感じている一方で、学生はそれらの能力要素の不足感への意識は低く、「自分は既に身についている」と考える傾向がある。
- 学生は「語学力」「業界に関する専門知識」「簿記」「PCスキル」等の能力が不足していると感じる一方、企業側はそれらお能力要素に不足感を感じていない。
新卒学生で就職活動中の皆さんは、もう一度自分自身の「社会人基礎力」を向上させるきっかけにしてみていただいても良いのではないでしょうか?
なお、企業側としては3つの能力の中では「前に踏み出す力」、12の能力要素の中では「実行力」を重視しているとも述べられていますので参考にしてください。